2005-09-01から1ヶ月間の記事一覧

『マイ・ファーザー』

ナチスの強制収容所で人体実験を行っていた父親と、その息子との対話と葛藤のドラマ。 といっても、社会派的な映画とか、政治的な映画というのとは、ちょっと違う。題名どおり父と息子の関係(愛憎)を描いているわけだが、少し変わってるのだ、この映画は。息…

バックハウスのモーツアルト

先日も書いたように、最近はぼくにしてはよく音楽を聞いているのだが、そのなかからひとつお勧めしたいものがある。 それは、「鍵盤の獅子王」とも呼ばれた(プロレスラーみたいなニックネームだ)大ピアニスト、ウィルヘルム・バックハウスが70歳ぐらいにな…

「キャットナップ」

保坂和志の短編「キャットナップ」は、文庫本『猫に時間の流れる』に収められている。 あらすじということではなく、興味のある部分についてだけ紹介する。 この小説の後半は、次のような話である。 ある病院の敷地内に野良猫が20匹ぐらい集まって暮らして…

故障・シューマン

前回のディープインパクトの記事のコメント欄に「本気で追ったら、故障しそうな」と書いた人があったが、ほんとにそんな感じだ。 すごい馬というのはだいたいそうなんだろうけど、ディープの場合、馬なりで走ってるのに、すでに限界を越えて力がはみ出してい…

ディープインパクトの危険について

一番語りたいとさえ思えるジャンルなのに、普段競馬についてあまり書かないのは、それを書くための言葉が自分のなかにないような気がするからである。 でも、今日の神戸新聞杯はさすがに衝撃的だったので、書いておきたい。 ディープインパクトは、あれはた…

野党が選挙に負けた理由

前回書いたように、今回の選挙で小泉自民党がとった戦略は、「組織」や「団体」を媒介とせず、特に都市部の大衆にメディアをとおして直接働きかけていくような動員のやり方だったといえるだろう。 これは、「大きな政府」による再分配型の政治の終焉という意…

『丹下左膳餘話 百萬兩の壷』

今日までの上映だったので見に行った。 1935年(昭和10年)に天才といわれた山中貞雄が撮った時代劇。 有名な作品だが、これはたしかに娯楽映画史上の傑作だ。映画館で大声を出して笑ったのは、ほんとに久しぶりだ。 大河内伝次郎の丹下左膳は、むかしよ…

自民党の終焉

今回の衆院選の結果がもたらしたものがなんだったか、まだ測りがたいところが多い。 かなりはっきりしている点だけを、整理してみよう。 これまでの自民党の支持基盤というのは、特定郵便局長会とか、医師会などの各種業界団体であるとかいった、アメリカで…

「生きる歓び」再読

フロイトは、動物愛護の運動をしている人の多くは、子どものときに動物虐待をした経験があり、それに対する代償として活動をしているのだ、と言ったことがある。 これは、こうした運動など正体はそんなものだというシニカルな意味でいったのではなく、一見観…

猫に時間の流れる

猫に時間の流れる (中公文庫)作者: 保坂和志出版社/メーカー: 中央公論新社発売日: 2003/03/01メディア: 文庫 クリック: 16回この商品を含むブログ (55件) を見る あることがきっかけでぼくは猫とつきあうようになったのだが、猫、とくにノラ猫をみているう…

文革について

このところ職場で毎日、1980年前後に中国で出版された本をあつかっている。どの本も、表紙をめくったところに内容紹介の文章が載っているのだが、ほぼ例外なく「この本は四人組追放後はじめて著者が出したもので」みたいなことが書いてある。 80年とい…

郵政民営化と小泉人気

今日、自分と同年齢だと分かった人。 宇梶剛士と前原誠司。 うーん、どうなんだろう。 きのうのエントリーについて、郵政民営化って要するにリストラで、民間ではいくらでもある話なのに、どうしてそんなに大げさに考えるのか、といったご意見をいただいた。…

数字の暴力・分断の暴力

おとといも書いたことだが、今回の選挙では小選挙区制度の特徴が極端にあらわれて、自民党と民主党など野党との議席数の開きが、得票数の開きよりもはるかに大きくなった。 この毎日新聞の記事にも、そのことが書いてある。 http://tinyurl.com/d7lo5要する…

メゾン・ド・ヒミコ

ひと月前、『リンダリンダリンダ』を見たとき、これは今年最高の邦画だろうと思ったが、また素晴らしい作品を見ることができた。 犬童一心監督の新作『メゾン・ド・ヒミコ』である。 http://www.himiko-movie.com/ 『リンダリンダリンダ』はすでに書いたよう…

敗北から学ぶべきこと

共同通信の記事によると、今回の選挙で自民党が得た得票は、民主党が得た票の約1・3倍。一方、獲得した議席の数は、自民党が民主党の2・7倍。 実際の得票数と議席数とのこの開きは、小選挙区制の特性によるもので、こういうことが起こりうる制度だから場…

投票日の終わりに

衆議院選挙は、いままだ開票中だが、自民党が記録的な大勝をすることが確実な情勢だ。 ぼくは何度も書いたように、小泉政権にも、小泉改革にも反対なので、残念な結果であるし、これからの社会に対して大きな不安を感じている。 だがまあ、いまそれを言って…

『拒否できない日本』

拒否できない日本 アメリカの日本改造が進んでいる (文春新書)作者: 関岡英之出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2004/04/20メディア: 新書購入: 20人 クリック: 184回この商品を含むブログ (165件) を見る これから数年後の日本に何が起きているか。それを知…

0と1の話

関西の風呂屋は、阪神戦の中継をやっている間に行くと空いている。 ぼくが夏場になると時々入りに行く銭湯は、元々客が少ないのだが、今日はなんと男湯のなかにぼく一人であった。 何年も前からこんな感じだけど、どうやって経営を維持してるのかが本当に不…

野田正彰『この社会の歪みについて』

このところ体調が悪くて、まとまったことを書くのがしんどいのだが、読みやすいし好い本だと思うので紹介しておく。この社会の歪みについて―自閉する青年、疲弊する大人作者: 野田正彰出版社/メーカー: ユビキタスタジオ発売日: 2005/08メディア: 単行本 ク…

NHKスペシャル・沖縄戦の番組

三日、土曜日の夜に放送されたNHKスペシャルの沖縄戦についての番組(どうも、再放送のようだ)、ぼくは後半しか見られなかったのだが、すごい内容だった。 米軍が沖縄を占領した直後、日本軍はまだ山のなかに立てこもって戦っていたとき、沖縄北部のある村で…

『泥棒日記』感想その2

ジュネの『泥棒日記』のことは数日前にも書いたが、毎日少しずつ読んでいたのが、ようやく読み終わったので、特に印象深かった部分のいくつかを切り取って、書き写す。泥棒日記 (新潮文庫)作者: ジャンジュネ,朝吹三吉出版社/メーカー: 新潮社発売日: 1968/1…

谷崎・震災・ファシズム

最近あるところで、95年の阪神・淡路大震災と、その後の日本の社会の変化(広い意味の保守化・右傾化のようなこと)との関係について語られた文章を読んだ。 それで思い出したのだが、ヨーロッパでは第一次世界大戦による破局が人々の心に与えた傷が、ファシ…