自民党の終焉

今回の衆院選の結果がもたらしたものがなんだったか、まだ測りがたいところが多い。
かなりはっきりしている点だけを、整理してみよう。


これまでの自民党の支持基盤というのは、特定郵便局長会とか、医師会などの各種業界団体であるとかいった、アメリカで言う「圧力団体」にあたるものがひとつ。もうひとつは、経世会に代表される「再分配の政治」によって、地方での支持を固めていた、ということである。この二つの支持基盤の存在が、族議員と呼ばれる人たちの存在を生み出し、官僚・業界・政治家が癒着した支配構造を可能にしてきたわけだ。
今回の衆院選での「小泉自民党」の戦い方は、この二つの支持基盤への決別を告げるものに見えた。


前者の「圧力団体」に関しては、今回の選挙で特定郵便局長会を切ってしまったのが象徴的で、これまで自民党を支えてきた多くの圧力団体を、あえて敵に回しても戦って勝つ、という路線を小泉はとったし、このやり方は今後も拡大されていくと思う。
もちろんたとえば経団連のような巨大な勢力を敵にするということはありえないだろうけど、グローバル化と「改革」による日本社会の変化が進むなかで、これまで有力だった圧力団体が力を失うということは当然あるだろうし、そういうことだけではなく、「団体」や「組織」という媒介に頼らなくても、組織化されていない大衆に直接働きかけて票に結びつけるというやり方を、小泉政権を支える人たちは、しっかりと自分たちのものにしたのではないかと思う。


また後者の、これまでの自民党は地方の票で勝っていたという話だが、今回の比例区の票で、非常に目立ったのは、東京と北海道の開票結果だ。
東京では、自民と民主の得票がダブルスコアとなり、自民は票をとりすぎて比例代表の人数が足りなくなり、社民がたなぼたで一議席を譲り受けるという、冗談みたいなことが起きた。大都市、特に東京が、自民にとってのもっとも安定した票田となったわけだ。
一方で、小泉政権の政策のために経済の苦境が続いている北海道では、全国の比例区で唯一、民主党の得票が自民を上回った。まあ北海道はもともと野党が強いところであるとはいえ、今後「改革」の影響で地方の経済がもっと圧迫されるようになると、従来型の自民党の「再分配の政治」(早い話、公共事業など)はすでに崩壊しているので、地方の人たちが自民党政治をありがたがる理由はもはやなく、地方の自民党離れがもっと進む可能性がある。
これもそれを承知で、小泉政権は地方というこれまでの支持基盤を捨て、都市の人たちに訴えかける戦略をとったのだと思う。その潔さが有権者に受けた、という要素はたしかにあるだろう。


この二つの支持基盤に頼らない選挙をやったということ、むしろそれを敵に回してもよいという戦い方をしたということは、革命的ともいえる戦術転換で、そのおかげで今回の大勝となったと言えるだろうが、同時にこれは自民党という旧来の組織からいうと、やはり基盤の空洞化、弱体化を意味することも事実だ。
次の選挙で、今回の小泉に当たるような「顔」をうまく都合できなかった場合、自民党が勝利することは、もはや難しいのではないか。
その意味では、小泉純一郎は、本当に自民党をぶっ壊してしまったのかもしれない。


二つの支持基盤から、自民党が本当に決別するつもりかどうかは、はっきり分からない。
しかしどうも、ルビコン川は渡ったという感じがする。日本の先行きはどうあれ、自民党そのものは、これから本格的な終焉に向うだろう。
それがいいことかどうかは疑問だが。


この稿続く。