2023-01-01から1年間の記事一覧

『ユダヤとイスラエルのあいだ』(新装版)

www.seidosha.co.jp 元は2008年に出版された本だが、今年の8月に出た新装版。僕は初めて読むと思う。イスラエルとパレスチナの問題の背景というか、本質がどこにあるのかということを、思想的な面から追求しており、ちょっと難しいところもあるが、やは…

『黙々』(高秉權)

www.akashi.co.jp 本書の著者、高秉權(コ・ビョングォン)さんは、元々は「スユ+ノモ」に居た韓国の哲学者だそうだが、2009年頃からの数年間を「ノドゥル障害者夜間学級」という夜学で教え側として過ごした。この本の内容は、その体験から得られた考え…

『黒人と白人の世界史』

www.akashi.co.jp 本書で著者のオレリア・ミシェルは、「人種」という差別的な概念(第二次大戦直後に、ユネスコなどによって、その非科学性が高らかに宣明されたにも関わらず、現在なお猛威を振るっている)の原型を「奴隷制」に見出している。 人類史にあ…

『パレスチナ/イスラエル論』

『パレスチナ/イスラエル問題の現状は、率直に言って、直視し語ることも放棄したくなるほどの惨状にあると言える。(中略) パレスチナは、イスラエル建国の一九四八年とその前後の「ナクバ」(アラビア語で大災厄)以降、つねに危機的であり、次々とその危…

鵜飼哲著『いくつもの砂漠、いくつもの夜』から

今年の5月に出版された鵜飼哲著『いくつもの砂漠、いくつもの夜』は、収められている全ての文章が素晴らしいのだが、ここでは個人的に特に印象深かった「家族のいくつもの終焉=目的」という文章について書いておきたい。 この文章は、2014年に(おそら…

中上健次再考(黒川みどり『創られた「人種」』から)

前回も書いたように、最近、南アフリカ出身のノーベル賞作家J・M・クッツエーの小説をいくつか読んだのだが、クッツエーに関して、デビュー直後の1980年代前半ごろまでは、当時の世界の文学界の流行もあって、(日本では特に)その作品は南アフリカの政…

クッツエーの三作品

このところ、J・M・クッツエーの小説、『恥辱』(1999年)、『鉄の時代』(1990年)、それに『遅い男』(2005年)を立て続けに読んだ。 クッツエーの小説は、以前に『マイケル・K』(1983年)を読んで、非常に良かったのだが、その後に『夷…

『テロルはどこから到来したか』

impact-shuppankai.com これも鵜飼哲さんの、2020年4月に出版された旧著になるが、買って読んだ。 今はなき雑誌『インパクション』に掲載された文章を中心に(あとがきでは、インパクト出版会の須藤久美子さんに対して、特に謝意が述べられている)、8…

「怪物のような「かのように」」を読んで

ジャッキー・デリダの墓 作者:鵜飼 哲 みすず書房 Amazon 『ジャッキー・デリダの墓』(鵜飼哲著 2014年)に収められた論考、「怪物のような「かのように」」は、巻末の初出一覧を見ると2008年にパリのコロックにおいて発表されたものとなっているが…

『ジャッキー・デリダの墓』

ジャッキー・デリダの墓 作者:鵜飼 哲 みすず書房 Amazon 著者の師であり、畏友でもあったデリダの死から10年後の2014年に出版された本で、ずっと読みたいと思っていたが、これまで読んでなかった。 期待通りの凄い本だということは、書くまでもないだ…

『動物を追う、ゆえに私は〈動物で〉ある』

動物を追う、ゆえに私は〈動物で〉ある (単行本) 作者:ジャック・デリダ 筑摩書房 Amazon 1997年に行われたデリダの名高い講演の記録。 ここでは、デカルト、カント、ハイデガー、レヴィナス、ラカンという人々の思想が、人間中心主義的なものとして批判…

『雄羊』

www.chikumashobo.co.jp デリダが亡くなる前年の2003年に行われた、ハンス・ゲオルク・ガダマーを追悼する記念講演を文章化したもの。 最初のパートのなかで、こういうことが書かれている。 『というのも、そのたびに、そのたびに単独=特異に、そのたび…

『正義への責任』

正義への責任 (岩波現代文庫 学術 447) 作者:アイリス・マリオン・ヤング 岩波書店 Amazon 「訳者あとがき」(岡野八代・池田直子)によると、著者のヤングはもともとマルクス主義フェミニズムの米国における代表的な論客として知られていた人のようである。…

『哲学のナショナリズム』

哲学のナショナリズム: 性,人種,ヒューマニティ 作者:ジャック・デリダ 岩波書店 Amazon 夭折したドイツの詩人トラークルの詩を論じたハイデガーの文章を執拗に分析したデリダの講義録。 トラークルの詩では、魂は地上においては「余所者」であると言われる…

映画『飯舘村 べこやの母ちゃん』

十三のシアターセブンで、古居みずえ監督の『飯舘村 べこやの母ちゃんーそれぞれの選択』を見た。また、上映終了後に監督の舞台挨拶があり、こちらもとても良かった。映画は、飯舘村に暮らしてきた三人の「母ちゃんたち」の原発事故以後の姿に寄り添って撮ら…

『人種契約』

チャールズ・W・ミルズ『人種契約』。 人種契約(叢書・ウニベルシタス) (叢書・ウニベルシタス 1150) 作者:チャールズ・W・ミルズ 法政大学出版局 Amazon 著者は、よく似た名前の社会学者とは別人で、ジャマイカにルーツを持つ政治哲学者。 ロックやカン…

『ニック・ランドと新反動主義』

いろいろ面白かった。 ニック・ランドと新反動主義 現代世界を覆う〈ダーク〉な思想 (星海社 e-SHINSHO) 作者:木澤佐登志 講談社 Amazon 表題の新反動主義だが、前半でその代表的な論者として紹介されるのは、いずれもシリコンバレーの企業を経営する二人の…