『10代に届けたい5つの“授業”』

www.otsukishoten.co.jp この本は7人の書き手が、それぞれ深く関わる社会問題の分野に関して、10代の人たちを対象に語りかける内容。収められた文章はいずれも、ラディカルな問いかけを含んでいて、ハッとさせられる。 例えば、障害者問題に関して、相模…

『抵抗への参加』

www.koyoshobo.co.jp この本は、すごく大事なことが書いてあると思った。 僕から見て、ポイントになるのは「解離」という言葉だ。著者は、家父長制の構造をとっているわれわれの社会では、人間は成長の早い段階でそのシステムへの参入を強制されることになり…

『素足の娘』

www.amazon.co.jp 佐多稲子『素足の娘』。 想像以上に強力な小説だった。 自伝的作品とされているが、そのことをまったく抜きにしても、戦前の日本(1940年発表・出版)において、性暴力をテーマとしてこれほどの作品が書かれていたことには、驚くほかな…

『近代朝鮮文学と民衆』

www.shumpu.com 珍しく、出版されたばかりの本についての記事です。 書名の「近代朝鮮文学」とあるが、1919年の三・一運動から1945の日本の植民地支配からの解放に至るまでの時期に、朝鮮人によって書かれた(主に朝鮮語の)文学作品が論じられてい…

『小さき者たちの』

mishimasha.com 今の日本や世界の状況を見ていると、少なくともあと数百年ぐらいは、今よりまともな世の中になることはないだろうと思う。 もっと悪くなる可能性ばかり考えられ、良くなる可能性は、なかなか考え難い。 もし良くなるとすれば、それは高度な知…

『オーウェルの薔薇』

オーウェルの薔薇 - 岩波書店 オーウェルというと、ディストピアを描いたペシミスティックな作家というイメージが、欧米でも強いようだ。だが著者は、オーウェルの思想と文学の根本には、経験的な生の肯定があることを強調する。その生涯は、薔薇をはじめと…

『兵役拒否の問い』

兵役拒否の問い/イ・ヨンソク – 以文社 韓国の兵役拒否運動や、徴兵制の実情について全く知らなかったので、大変勉強になった。韓国では2000年以後に兵役拒否運動が大きな広がりを見せ、その結果、2020年に良心的兵役拒否者への代替服務制(軍務に…

『ユダヤとイスラエルのあいだ』(新装版)

www.seidosha.co.jp 元は2008年に出版された本だが、今年の8月に出た新装版。僕は初めて読むと思う。イスラエルとパレスチナの問題の背景というか、本質がどこにあるのかということを、思想的な面から追求しており、ちょっと難しいところもあるが、やは…

『黙々』(高秉權)

www.akashi.co.jp 本書の著者、高秉權(コ・ビョングォン)さんは、元々は「スユ+ノモ」に居た韓国の哲学者だそうだが、2009年頃からの数年間を「ノドゥル障害者夜間学級」という夜学で教え側として過ごした。この本の内容は、その体験から得られた考え…

『黒人と白人の世界史』

www.akashi.co.jp 本書で著者のオレリア・ミシェルは、「人種」という差別的な概念(第二次大戦直後に、ユネスコなどによって、その非科学性が高らかに宣明されたにも関わらず、現在なお猛威を振るっている)の原型を「奴隷制」に見出している。 人類史にあ…

『パレスチナ/イスラエル論』

『パレスチナ/イスラエル問題の現状は、率直に言って、直視し語ることも放棄したくなるほどの惨状にあると言える。(中略) パレスチナは、イスラエル建国の一九四八年とその前後の「ナクバ」(アラビア語で大災厄)以降、つねに危機的であり、次々とその危…

鵜飼哲著『いくつもの砂漠、いくつもの夜』から

今年の5月に出版された鵜飼哲著『いくつもの砂漠、いくつもの夜』は、収められている全ての文章が素晴らしいのだが、ここでは個人的に特に印象深かった「家族のいくつもの終焉=目的」という文章について書いておきたい。 この文章は、2014年に(おそら…

中上健次再考(黒川みどり『創られた「人種」』から)

前回も書いたように、最近、南アフリカ出身のノーベル賞作家J・M・クッツエーの小説をいくつか読んだのだが、クッツエーに関して、デビュー直後の1980年代前半ごろまでは、当時の世界の文学界の流行もあって、(日本では特に)その作品は南アフリカの政…

クッツエーの三作品

このところ、J・M・クッツエーの小説、『恥辱』(1999年)、『鉄の時代』(1990年)、それに『遅い男』(2005年)を立て続けに読んだ。 クッツエーの小説は、以前に『マイケル・K』(1983年)を読んで、非常に良かったのだが、その後に『夷…

『テロルはどこから到来したか』

impact-shuppankai.com これも鵜飼哲さんの、2020年4月に出版された旧著になるが、買って読んだ。 今はなき雑誌『インパクション』に掲載された文章を中心に(あとがきでは、インパクト出版会の須藤久美子さんに対して、特に謝意が述べられている)、8…

「怪物のような「かのように」」を読んで

ジャッキー・デリダの墓 作者:鵜飼 哲 みすず書房 Amazon 『ジャッキー・デリダの墓』(鵜飼哲著 2014年)に収められた論考、「怪物のような「かのように」」は、巻末の初出一覧を見ると2008年にパリのコロックにおいて発表されたものとなっているが…

『ジャッキー・デリダの墓』

ジャッキー・デリダの墓 作者:鵜飼 哲 みすず書房 Amazon 著者の師であり、畏友でもあったデリダの死から10年後の2014年に出版された本で、ずっと読みたいと思っていたが、これまで読んでなかった。 期待通りの凄い本だということは、書くまでもないだ…

『動物を追う、ゆえに私は〈動物で〉ある』

動物を追う、ゆえに私は〈動物で〉ある (単行本) 作者:ジャック・デリダ 筑摩書房 Amazon 1997年に行われたデリダの名高い講演の記録。 ここでは、デカルト、カント、ハイデガー、レヴィナス、ラカンという人々の思想が、人間中心主義的なものとして批判…

『雄羊』

www.chikumashobo.co.jp デリダが亡くなる前年の2003年に行われた、ハンス・ゲオルク・ガダマーを追悼する記念講演を文章化したもの。 最初のパートのなかで、こういうことが書かれている。 『というのも、そのたびに、そのたびに単独=特異に、そのたび…

『正義への責任』

正義への責任 (岩波現代文庫 学術 447) 作者:アイリス・マリオン・ヤング 岩波書店 Amazon 「訳者あとがき」(岡野八代・池田直子)によると、著者のヤングはもともとマルクス主義フェミニズムの米国における代表的な論客として知られていた人のようである。…

『哲学のナショナリズム』

哲学のナショナリズム: 性,人種,ヒューマニティ 作者:ジャック・デリダ 岩波書店 Amazon 夭折したドイツの詩人トラークルの詩を論じたハイデガーの文章を執拗に分析したデリダの講義録。 トラークルの詩では、魂は地上においては「余所者」であると言われる…

映画『飯舘村 べこやの母ちゃん』

十三のシアターセブンで、古居みずえ監督の『飯舘村 べこやの母ちゃんーそれぞれの選択』を見た。また、上映終了後に監督の舞台挨拶があり、こちらもとても良かった。映画は、飯舘村に暮らしてきた三人の「母ちゃんたち」の原発事故以後の姿に寄り添って撮ら…

『人種契約』

チャールズ・W・ミルズ『人種契約』。 人種契約(叢書・ウニベルシタス) (叢書・ウニベルシタス 1150) 作者:チャールズ・W・ミルズ 法政大学出版局 Amazon 著者は、よく似た名前の社会学者とは別人で、ジャマイカにルーツを持つ政治哲学者。 ロックやカン…

『ニック・ランドと新反動主義』

いろいろ面白かった。 ニック・ランドと新反動主義 現代世界を覆う〈ダーク〉な思想 (星海社 e-SHINSHO) 作者:木澤佐登志 講談社 Amazon 表題の新反動主義だが、前半でその代表的な論者として紹介されるのは、いずれもシリコンバレーの企業を経営する二人の…

『ウォークス 歩くことの精神史』

これは恐ろしく読みごたえのある本だった。原著の出版は2001年頃。 ウォークス 歩くことの精神史 作者:レベッカ・ソルニット 左右社 Amazon 書いてあることの要点は、ひとつには、著者が重視する「歩行の文化」とは、西洋近代において、特に産業革命以後…

『国家をもたぬように社会は努めてきた』

http://www.rakuhoku-pub.jp/book/27323.html この本は、クラストルへのインタビュー(70年代だったか?)が主内容となっているが、訳者でもある酒井隆史による法外に長い「解題」が付されており、共著といってもよい内容である。酒井の文章は、この夭折し…

『人はなぜ記号に従属するのか』

人はなぜ記号に従属するのか 新たな世界の可能性を求めて 作者:フェリックス・ガタリ 青土社 Amazon この本の原著は、ガタリが1970年代後半に書き残していた文章を、死後ずっと経ってから他の人が編集して(2011年に)出版したものらしい。 すごく難…

『台湾、あるいは孤立無援の島の思想』

台湾、あるいは孤立無援の島の思想 作者:呉叡人 みすず書房 Amazon この本で特に印象深かったのは、国民党の馬英九政権に対して、台湾の社会運動が強力な抵抗を行い、民進党への政権奪回を実現したばかりか、民進党の政策を多文化主義的・脱資本主義的な方向…

『三ギニー』

三ギニー (平凡社ライブラリー) 作者:ウルフ,ヴァージニア 平凡社 Amazon ヴァージニア・ウルフの『三ギニー』は、第二次大戦前夜である1938年の状況下に、反戦をテーマとしてフェミニズム的な立場で書かれた傑作だ。これを評論と呼ぶべきか、フィクショ…

『アメリカ批判理論』

この本はとにかく面白かった。 アメリカ批判理論 作者:マーティン・ジェイ,日暮 雅夫,チャールズ・プリュシック,ナンシー・フレイザー,ウェンディ・ブラウン,ピーター・E・ゴードン,マックス・ペンスキー,ロバート・カウフマン 晃洋書房 Amazon ざくっと内容…