ヴェーユの「リスク」

ちょうど今読んでいる『根をもつこと』のなかに、リスク(危険)についての明快な記述があった。


ヴェーユは、恐怖や不安(による抑圧)というものを、人間の魂を圧殺する悪として断罪するのだが、危険(リスク)は、その正反対のものとされている。むしろ、「危険の欠如」こそが魂を殺す、というのである。

危険(リスク)は魂の本質的要求の一つである。危険の欠如は、一種の倦怠を生み出し、その倦怠は、恐怖とは別様なかたちではあるが、ほとんど同じ程度に人間を麻痺させる。しかもはっきりとした危険を感じさせず、次第に蔓延する不安を暗示しながら、同時に二つの病いを伝染させる情況というものもあるのだ。(p60)


扇動による不安の蔓延と、「危険(リスク)の欠如」ないし「排除」によって作り出され、「伝染」していく魂の危機。
これは、ナチスの手法をよく見ていた、ということもあるだろう。

不安や恐怖から人間を保護すべきであるとしても、このことは危険の絶滅を意味しない。それどころか、社会生活の諸局面に、ある量の危険がたえず存在することを意味するのである。(同上)


そこにあるはずの、またあるべき危険が「存在」しないことにされ、「絶滅」がうたわれるような社会。
これが人々の魂の力を弱め、権力による支配や管理を容易にしていくものだと、彼女は考えた。


根をもつこと

根をもつこと