「救える命が救えない 〜沖縄・民間ドクターヘリ再び空へ〜」

土曜の深夜、以下のドキュメンタリー番組を見た。
製作は琉球朝日放送

http://tv.yahoo.co.jp/program/7058/?date=20090228&stime=2545&ch=8418

テレメンタリー
「救える命が救えない 〜沖縄・民間ドクターヘリ再び空へ〜」


2004年、沖縄国際大学に米軍ヘリが墜落、あらためて「基地の島」沖縄を思い知らされる出来事だった。事故後も我が物顔で轟音を響かせ、沖縄の空を行きかう米軍ヘリ。ヘリコプターは沖縄の「危険」を象徴する存在。そのヘリコプターが今、ドクターヘリとして、人々の命を救っている。


沖縄本島の南部と北部では、地域格差が深刻だそうである。
北部地域には、全島の人口の10%しか住んでいない。過疎化が進み、医療の面でも深刻な事態になっている。
病院も少ないうえ、交通が不便なこともあり、とりわけ救急患者を(都市部の)病院に運び込んで救命するということがたいへん困難なのである。
そこでこの地域では、MESH(メッシュ)と呼ばれる民間ドクターヘリのシステムが医師たちによって立ち上げられ、人々の命を救ってきた。
http://www.meshsupport.net/


沖縄県には、他に公的なドクターヘリの仕組みもあるのだが、時間的な関係から(15分以内の処置が勝負だとされるため)、北部の場合には公的な仕組みでは不十分で、MESHの存在が不可欠であるとのことだそうだ。
ところが、財政難から、その運営が立ち行かなくなり、運営する人たちはその資金を民間からの募金によって賄おうと努力しているが、目標額の数分の一しか集まっていない現状である。


だが実は、その資金を賄う方法がひとつだけある。
それは、国から自治体に支給される在日米軍の「再編交付金」というものを使う、ということである。
米軍の再編と基地の存続を認めるようなこの交付金を、ドクターヘリの運営のために使うべきかどうか、地元の人たちの間に葛藤が生じている。
番組では、その様子を描いている。


運営者の医師が言っていたのは、基地の存在そのものが住民に大きな負担をかけるものであり、その補償のような形で出される金を自分たちの医療システムに使うことにはためらいがあるので、これはなるべく民間の募金によって賄いたい、という風な言い方であった。
結論的には、当面の再開の立ち上げのための資金としてのみ、この交付金を使う、という方向に行ってるようである。


もちろん、もっと根本的には、こういう議論や葛藤があるだろう。
基地というのは、軍事目的、人の命を奪うことに直結しているものであり、またさまざまな暴力をその土地の人たちにもたらすであろうものである。その存続(再編)にまつわる金を、しかも「人命を救う」という目的のために使うということは、ある面で言えば矛盾している、といえないのか。
誰も地元の人たち(命が関わっている)に、そのことを責めるわけにはいかないだろうが、その人たち自身の多くがそういう葛藤を抱え込まざるを得ないだろうことが、問題なのである。
この番組は、そののしかかる不当な暴力性みたいなものを描こうとしてる、と思える。


そして、次のようなことがある。
ヘリの運営は、無論一年限りではなく、毎年のことだ。一度「交付金」を使ってしまうと、ずっとそれに頼る形で運営することになる怖れがある。すると、基地の存在にいわば依存する仕方でしか地域の生活を維持できなくなり、基地賛成の立場に立たざるをえなくなる。
辺野古で反対運動を行っている方が述べていた反対論も、そういうことであった(そこで上記の、再開立ち上げのためだけに交付金を使う、という判断が出てきたのかも知れない)。


そして、もっと忌まわしいのは、国によるこの交付金の支払い方である。
構想段階から新たな基地の建設完了に至るまで、地域と自治体の協力に応じて少しずつ金額が交付される。この間、少しでも非協力的と見なされれば、ただちに交付は凍結される。
恫喝の意味も込められた制度、といわれる所以である。


見ていて強く思ったことは、この国には「再編交付金」という形で小出しに支出する金の財源はあっても、僻地の人々の命を救うために出す金の財源はないのだ、ということである。
もともと「再編交付金」という形でしか、公的な資金援助を期待できない、この地域医療システムの置かれている位置がおかしいのである。
人命のために金を使わない、地域の人命よりも軍事のための予算の方を優先するこの国の政治家や官僚(そして有権者)が、他国の人々を殺し、その土地の自然や社会・生活を根本的には破壊していく軍事基地の存在を容認し続けているのは、むしろ整合性があるともいえる。
この問題は、われわれが、どういう価値観を基礎に置いて自分たちの社会を形成していくのか、命を大事なものとする社会を作るのか作らないのか、その問いを突きつけているのだと思った。


(MESHへの募金等は、上のサイトから出来るようです。)