他人の悲惨を「絶好のチャンス」と言ってしまう人

動画も記事自体もすぐにリンク切れになると思うけど、一応。
NHKのお昼のニュースから。

http://www3.nhk.or.jp/news/k10015961631000.html

液晶パネルの需要が減っていることを受けて、大手電機メーカーのシャープは、奈良県天理市三重県多気町の工場の液晶パネルの一部の生産ラインを廃止し、これに伴っておよそ380人の非正規従業員を削減する考えを明らかにしました。


シャープは、12日午前、大阪で記者会見し、世界的な景気の低迷で需要が減っている液晶パネルについて、生産の効率化を進める必要があるとして、携帯電話やパソコン向けの液晶パネルを生産している、奈良県天理市三重県多気町の工場のそれぞれ一部の生産ラインを来年度の前半までに廃止し、三重県亀山市にある工場に集約することを発表しました。これに伴う、派遣社員など非正規従業員の扱いについて、シャープの井淵良明副社長は、契約満了の従業員と途中解除の従業員あわせておよそ380人を削減することになるとの見通しを示しました。また、井淵副社長は「現在の市況の環境は厳しく、工場の再編に着手するには最適なタイミングと判断した」と述べ、再編成による競争力の向上を強調しました。


動画のなかでは、シャープの経営者が「絶好のチャンスだ」と言っているのを、記事のなかでは「最適なタイミングだ」と書き換えてある。
兵庫県知事の例もあるので、NHKもさすがに、これはマズイと思ったのだろう。
従業員の大幅削減を「絶好のチャンス」と表現する、この感覚。


無論、工場の再編に「最適なタイミング」という意味で言っただけだと弁解するだろうが、派遣社員など、ただちに生死の危機につながりかねない惨状を自分たちの「経営判断」で引き起こすというのに、「たんに職業上の義務を果たしてるだけだ」と言って正当化するなら、アイヒマンなどナチスの官僚と同様だ。


先日も、ある経済評論家が、テレビ番組で、「大幅リストラで大企業が悪いように言われるが、企業としてはまったく当然のことをしているだけ」と嘯いていた。たしかに、このところ連日株価も上向いている。
だが、今月の収支が悪化すれば、ただちに倒産で社員、社長もろとも路頭に迷いかねないような零細企業ならともかく、大企業じゃないか。
げんに連合は、こないだ賃上げの要求をしたところだ。
弱い立場の人間を、不況を口実にしてリストラするぐらいなら、他に打つ手はあるはずだ。


かりに、本当に大幅解雇しか打つ手がないのだとしよう。
それなら、より大きな悲惨をさけるために、やむをえず行った苦渋の選択ということになる。
一体どこに、「絶好のチャンス」などという言い草が出てくる余地があるのだ。


経営者には、たしかに経営者の仕事の領分があるだろう。そのなかで最善の選択を行うことが義務だろうが、それは人間としての義務を免責するものではない。
経営者としては最善の選択であっても、それが大きな悲惨を引き起こすものだという現実感覚は、せめて持つべきである。


誰にとっても悲惨な経済上の苦境を「絶好のチャンス」と無理に希望的に言い換えなければ、自分も安心できないし、株価も下がりかねないというのなら、そんな経済の仕組みは、やはり人間の現実にそぐわないものだと言うしかあるまい。