『ホテル・ルワンダ』をやっと見た

『ホテル・ルワンダ』をようやく見ました。


すでにたいへん話題になってる作品なので、内容については詳しく書きません。
1994年にアフリカのルワンダで起きた大虐殺のときの実話をもとにしたドラマで、家族や多くの人たちを救ったホテルの支配人の男性の勇気ある行動を中心に描いています。
平日の午前中の上映でしたが、映画館、満員でした。
それで、感想です。


はじめに書きますが、ぼくはこの映画を「是非見るべきだ」というふうには、人にすすめられません。こういう作品が公開されて多くの人に見られている現状は素晴らしいと思いますが、不特定の人に見ることをすすめようとは、ぼくは思わない。
それほど、辛い、重い内容の映画です。


いえることは、自分には、この映画を見て、何かを感じたり、考えたりする「余裕」があったということ。でも、いろんな事情で、そういう余裕をもてない、距離を置いてこの作品を見ることのできない人たちも、世の中にはいるんじゃないかと思う。
それを考えると、ちょっとこういうところで不特定の人には勧めにくいです。


正直なところ、映画を見終わって、自分が何を見たのかがはっきりしない。
ドキュメンタリーではなく、劇映画だというのは分かってるんだけど、それだけですまないものが残る。それはもちろん、実際に起こった想像を絶する現実の出来事を題材にしていること、そして、それと地続きの現実が、今でも世界中に存在しているということと関係してるんだろうけど、そう整理してしまうと、ちょっと違う気がする。
映画そのものに関して、戸惑いという気持ちが大きいです。映画の出来がどうこうと書く気にならないのは、その題材になった現実の出来事が大きすぎるからなのか。


前も書いたように、ぼくはこの映画を見ないでおこうと思ってたけど、それは何度も書いてきた大阪市の行政代執行のときの、記憶というか非常に私的な感情が自分のなかにあるからで、こういう社会派的な映画は、当分見たくなかった。
時間が少したったのと、他の方の感想の記事を読んだので、考え直して見ることにした。


たしかに、この映画を見て、そのへんの気持ちをつかれて、すごくしんどいというか、ということは感情移入して気持ちが動いてるということだが、そういう場面はいくつかあった。
それは、「個人」として描かれた主人公の支配人が苦悩する場面や、ニック・ノルティの演じる国連軍の将校やとか外国のテレビ局のクルー、つまりぼくと同じ社会に属していると感じられる人たちの苦悩や葛藤、また勇気とか感情が描かれた場面だ。
もちろん、その苦悩や勇気は、決して小さく見積もられてはいけないものだと思う、特にぼくにとっては。
だからやっぱり、想像してたような、ぼくなりのしんどさがある映画であり、ということは、心を動かされる映画ではあった。


でも、殺されていく普通の村人たち、百万人といわれるアフリカの人たちに関しては、ぼくの感情移入や想像力はとても届かない。そのことが、いやというほど分かる映画だった。
だから、この映画を見て「感動」したということは、ぼくはいいたくない。また、言ってはいけない映画だとおもう。
この主人公の行動や決断は、本当に賞賛されるべきものだと思うけど、個人の勇気ある振る舞いの物語を見て「感動した」と言ってすませることによって、隠され失われてしまうものがあまりにも大きな作品だ。
そういうことが許されないような事実の大きさ、過酷さ、それを冒頭の部分から感じた。
一人の「物語」が描かれることによって隠されてしまってはいけない、百万人の「物語」になりようもなかった死。
だが、この映画を作ってる人たちは、もちろんそのことを誰よりも強く思っていたはずだ。


つまり、一番本当のもの、一番大きなものが、スクリーンには決して映し出されることはないということ、だから結局、「何も見えなかった」というしかない映画。これは、そういう作品だと思う。
これは、映画が失敗してるということではなく、映画を見る側の限界を指し示すことに成功しているということではないか。
ともかく、ぼくのなかには「感動」はなく、戸惑いと重さだけが残った。


この映画に関して、本当に手放しで人にすすめられるのは、エンドロールで流れる、ルワンダの歌だけだ。
あの音楽だけは、多くの人に聞いてほしい。