不安定な職場を移動させられ続ける人々

ときどきテレビや新聞に、首を切られた派遣労働者が、警備の仕事や介護職など、人手が不足して困っているところに勤め口を見つけている、ということが報じられる。
これは、応急処置もいいところで、どう考えても問題の「解決」につながるような事態ではないはずだけど、何か「足りないところに人材が流れて、世の中うまく回ってますよ」みたいな報道のされ方になってるときがあり、あんまりだと思う。


大体、いま人手が足りないで困ってる職種の多くは、賃金が安いとか雇用が不安定だとか、労働条件がよくないから成り手が少ないわけだ。
不安定な雇用のされ方をした結果として首を切られた人たちが、都合よくそういうところに補充されても、そういった職種の条件の悪さが改善されるわけではない。むしろ、賃金が上がったりする理由がなくなってしまうぐらいだ。


問題になってるのは、低賃金の不安定な雇用の仕方をされてきた人たちがいて、その人たちへの社会保障的なものもまるで整備されてない、といったことなのに、首を切られたそういう人たちが労働条件のよくない職種にそのまま補充されていくということは、社会全体において見れば一定の人間(労働力)が安全弁として使い捨てられるというこの構図が、(控え目に言っても)維持されていく、ということである。
つまり、個別の企業なり業界や職種での「非正規雇用の歪み」は不況によって強制的に打ち切りになったが、同じ歪みの仕組みが業種を越えて社会全体に拡大にしてるだけの話なのだ。


ともかく、介護職とか警備の仕事とかコンビニの店員とか、現在労働条件の悪さ故に人手が足りないと思われる職種の労働条件を、改善することを考えることなしには、ほんとうの意味での「非正規雇用問題」の解決が出来るはずはない。どうしてもそれが嫌ならその状況を補うに足るようなセーフティーネット的な仕組みを早急に作るようにすることが不可欠である。
そういったことは、誰でも分かってるはずだが、そういう報道にはなってない。


不安定な仕事を失った人が、不安定さゆえに人の集まらない職種に移動させられる。
そのことによって、この人々の位置づけが変らないだけではなく、これらの職種の不安定さと、その社会的な位置づけも、やはり変ることを阻まれ続けるのだ。
こうした現実に触れようとしない「世の中うまく回ってますよ」的な報道には、やはりこの根本的な変化の阻害に加担したいという意思が働いていることを、疑わざるをえないのである。