最近、パレスチナ問題に関してMLから得た情報の中で、とくに印象的であった文章を以下に転載します。
パレスチナの子どもたちの里親運動(始まりは、広河隆一さんたち)に関する、岡真理さんのメールです。
「ガザ復興」が言われる中で、現状の正確な理解のためにもたいへん役立つ内容の文章であろうかと思います。
なお、里親ということに関して、本件とは関係ないですが、先日読んだ田中優子著『カムイ伝講義』のなかに、江戸時代の村落に関して以下のような記述があったことも併記しておきます。
(前略)しかし『カムイ伝』で深く描かれないこととして、一人の子どもには、じつにたくさんの親がいたことも忘れてはならない。たとえばそれはカリオヤ(仮親)という風習からも見てとることができる。現在は親といえば生みの親以外考えにくいかも知れないが、その他にも子どもの成長過程において、かつては多くの大人が、一人の子と仮の(擬似的な)親子関係を結んでいた。(p250)
この里親運動のような動きが、血縁・遺伝子とか、国籍・戸籍・民族の枠を越えて、社会のなかに広がっていけば良いと、一般的にも思います*1。
(以下MLより転載)
【転載・転送歓迎】
みなさま、
京都のおかです。
今日、パレスチナの子どもの里親運動(JCCP)から手紙が来ました。
新しい里子が決まったという連絡です。JCCPは、レバノンのパレスチナ難民の子どもたちの支援活動をしている団体です。
1982年のサブラー・シャティーラ両キャンプの虐殺で親(とくに一家の働き手である父親)をなくした子どもたちを経済的に支援するために、1984年、広河隆一さんが中心になって始めました。
里親と言っても、子どもをひきとるわけではなく、レバノンの難民キャンプに暮らしているパレスチナ難民の子どもに毎月、支援金を送ります(5500円/月)。
いま、全国で約300人の方が里親になっています。
わたくしは、80年代半ばに里親になって、今回の里子で5人目です。
1997年生まれのアブドゥルラフマーン・ジャーベルくんという12歳の男の子、5人兄弟の3番目です。そのプロフィールを読んで、胸が塞がれる思いです。
家族はナハル・エル=バーレド・キャンプという、レバノン北部の難民キャンプに暮らしていました。
でも、2年前の夏、レバノン国軍の攻撃を受け、キャンプは徹底的に破壊されました。
キャンプの人々は、バッダーウィー・キャンプという、近くにある別のキャンプに避難しました。
バッダーウィー・キャンプの人口は1万5000人。
すでに過密なキャンプに、ナハル・エル=バーレドから3万人の住民が避難したのです。
いま、アブドゥルラフマーンの家族は、父親の親戚といっしょに、ガレージを借りて、そこに暮らしているそうです。
お父さんは病気で仕事はありません。
家族は、さまざまな人道支援団体の援助で生活していますが、じゅうぶんではありません。
家族は、お父さんの治療代も払わなければなりません。18歳になる長男(無職)は精神をわずらい、治療を受けているそうです。
14歳になる次男も「無職」とありますから、学校をすでに中退しているのでしょう。アブデルラフマンもまだ12歳ですが、進級試験に何度も落ち、学校を中退しました。
でも、専門的な技術を身につけようと思っても、12歳では幼すぎます。
しかも、小学校4年生程度の教育しかないのです。
いまはなんとか、自動車整備の訓練を受けているそうです。狭いガレージで10人以上の家族が暮らしています。
勉強だってままならないでしょう。
進級できなくて当然です。生まれてからずっと、そんな暮らしです。
学校も続けることができず、手に職もなく、仕事もなく、未来に希望もなく、
お兄さんが精神を病んでしまうのも当然かもしれません。その家族を31歳のお母さんが一人で支えています。
これまで支援してきた里子のなかで最悪の状況に生きている子です。
でも、この家族よりもさらに悲惨な状況を生きている家族も無数にいるのでしょう・・・。添えられた顔写真には、聡明そうで、腕白そうな、かわいい男の顔が写っています。
この子にはいったい、どんな未来があるのでしょうか?
長男の姿は、6年後のこの子の姿なのでしょうか?学歴もなく、専門的な技術もなければ、レバノンを出て、どこかヨーロッパの国で未来を切り開く可能性もありません。
27年前、サブラーとシャティーラの両キャンプに閉じ込められた住民たち2000名以上が虐殺されたように、
2年前の夏、ナハル・エル=バーレドキャンプが砲撃され、破壊され、難民として生まれ育った彼らが、再び新たな難民となってしまったように、
未来の彼を待っているのは、新たな虐殺、新たな難民化なのでしょうか?このエンドレス・フィルムはいったい、いつ終わるのでしょうか?
彼らの生活を支援し、彼らが生きていくのを支えることはぜったいに必要です。
でも、それだけでは、難民キャンプという牢獄の無期懲役からアブドゥルラフマーンも、彼の未来の子どもたちも決して解放されません。これは、ガザの場合も同じです。
破壊されたガザの復興のために支援をするのはぜったいに必要なことです。
でも、それだけでは、問題はなにも解決しません。私たちが、そして、国際社会が、ほんとうにしなければならないのは、
レバノンの難民キャンプにいるアブドゥルラフマーンが、
そして、ガザにも無数にいるアブドゥルラフマーンが、
難民キャンプで難民として、国際社会の善意によって経済的に支えられながら生きて、人生を終えるのを援けることではなく、
彼らが、私たちと同じような、自由な市民として、尊厳をもって、生きていけるようにすることだと思います。そのためには、
彼らが「今」を生き延びるのを支えながら、同時に、
イスラエルによるガザと西岸の占領が終結すること(国連安保理決議242号)、
イスラエルが、パレスチナ難民の帰還権を認めること(国連総会決議194号)、
これらの実現のために、わたしたちが努力することがなによりも大切だと思います。アブドゥルラフマンの「今」を私たちが支えるのは、彼が何十年後かに、難民のまま、難民キャンプで死ぬためではありません。
何年後かに彼の子どもが難民キャンプで殺されるためでもありません。ガザの復興を私たちが支援するのは、ガザの人々が、ガザに閉じ込められたまま、一生を送るためではありません。
1982年の秋にレバノンの難民キャンプで起きたことが、
2008〜2009年の冬、ガザで起きたように、
この冬、ガザで起きたことは、
何年かのちに、レバノンのアブドゥルラフマーンの身に起こること、かもしれません。
このエンドレス・フィルムに、私たちの手で、「ジ・エンド」の文字を刻みましょう。
できるだけ、はやく。
それが実現するまで、レバノンにいる無数のアブドゥルラフマーンのことも、どうか、忘れないでください。
パレスチナの子どもの里親運動HP
http://www5e.biglobe.ne.jp/~JCCP/賛助会員の制度もあります(1万2000円/年)。
おか まり