スタートラインに立つために

きのう紹介した番組で、「所得を上げると言っても、フローの部分を上げることは難しいので、ストックの部分を上げて」という風に言ってる解説委員が居たけど、あれ要するに「賃金や人件費は上げません」ってことなんだよなあ。
そして、資産価値、とくに株価が上がるようにする、ということ。そうしたら、株をもってる人たちがたくさん消費をするようになって景気がよくなり、みんなの生活が上向く、という言い分らしい。


でも、そういう理屈で経済を動かしてきた結果が、この現状になっている。
景気が良かった頃でも、賃金や人件費は抑制され、非正規雇用のような使われ方をされる人がたくさん存在するということが、その「景気の良さ」(経済成長)の代償だった。つまり、この成長は、数字と企業の利益のために人命を犠牲にしてきたのが内実である。
企業は人件費を抑制した方が、投資家に好感されて自分の会社の株価も上がるから、この株価中心の価値観が支配してる間は、働いてる人みんなに最低限の生活を保障するような労働の仕組みを企業がとることは、無理だ。


また、株価がどんなに上がったとしても、株を買うことが出来る人、持っている人の数は限られている。つまり、そこから直接的に利益が得られる人は限定されてる。統計上は、株価が上がれば消費も上向くというデータが出てるらしいけど、問題は、そうなっていても生きるのに必要な財(サービスを含む)を得られない人が、現実にたくさん居て放置されてる、ということだ。
株価が上がることの効果は否定しないが、あくまでその効果には限度があり、場合によっては、マイナスの効果のほうが大きい(現状は、そうなっている。)。


要するに、どうしても、人件費を上げさせる必要がある。一口に言うと、企業の取り分が多すぎるので、これを労働者の側に取り戻さなくてはいけない。
だがその場合、組合は「賃金を上げろ」というのでなく、「人件費の抑制に反対する」と言うべきである。
もっとも緊急かつ重要なのは、所得保障の手段としての雇用を基本的に守ることであり、現状ではそれは非正規雇用労働者の境遇の問題に集約されてることは明らかだ。だからこの部分において、人件費の抑制、直接には首切りに反対し、最終的には、このような雇用形態をやめさせること、ワーキングシェアを含めて安定的な労働条件を企業に作らせるように働きかけるべきだ。
それは、株価偏重、したがって企業利益偏重の経営のあり方を許さないという意思表示につながる。
そのことだけが、近い将来予想される、正規労働者のリストラを、経営側に思いとどまらせる方途になる。


そして、もっとも重要なことは、企業によるこれまでのような勝手な人の使い方と、その一部分としての首切りを、社会全体が容認しないことである。
現在起きている社会不安を解消・軽減するコストは、まず第一に、非正規雇用を多用してきたあげくに、不況に便乗して首切りを平然と行った大企業が支払うべきものだ。
民間・行政による救済策には限度があり、行政による救済は、最終的には、増税による納税者の負担に転嫁されるだろう。そのとき、賃金(人件費)は抑えられたままならば、要は格差・不公平が拡大・固定化されるだけである。
要するに、大企業には、人件費を上げさせるなり、社会保障・支援へのコストを担わせるなり、それなりの負担を、非正規雇用という形態を定着させて利潤の拡大を図ってきたことへのペナルティーの意味をこめて負わせなくてはいけない。


そして、少なくとも、大企業は、もっときちんと社会的に糾弾され、自らを恥じ、謝罪するべきなのだ。
大企業を擁護することで、その分け前に預かってきた、政治家、官僚、学者やジャーナリストも、無論同じである。
そこが、社会をあるべき方向(少なくとも、あるべきでなくはない方向)に変えていくための、唯一の出発点だ。