黒澤の代表作が、『七人の侍』と『野良犬』であることに異論はない。
とくに前者は、文句のない世界映画史に残る傑作だろう。重要な登場人物たちが、虫の様に呆気なく死んでいく。こんなにすごい反戦映画も少ない。どんな大義や美学も、戦場の殺し合いのなかではまったく無意味だということが、はっきりと描かれるのだ。
ただ、黒澤は、ハイデッガーやサルトル、ヘミングウェイなどと同じく、典型的な「大戦間期」の男性主義的な作家であったことは争えまい*1。
だから、死をどのように意味づけるかという発想から完全に脱却できているわけではないと思う。
もうひとつの有名な作品、『生きる』にしても、「死ぬ」と題名をかえても成立するような感じである。
ぼくは、この作品の方は、全体として破綻しているように思う。
もちろん、あまりに有名なこのシーンは忘れがたいのだが。