マダガスカル日和

好天の某日、とある小さな小さな展示館(ギャラリー)で開催中の、マダガスカルについての展示をぶらりと見に行った。
一人で見ていると、館員らしい研究者の方が案内を申し出てくださり、丁寧に解説をしていただいた。
以下は、そこで聞いた話。


① マダガスカルは、ほんの五百年ほど前までは無人島だったとのこと。大陸に程近い、巨大な島なのだが、意外なことである。島に人が住むようになった始まりは、今のインドネシアあたりの人たちが、奴隷として連れてこられたのが定住するようになったものらしい。ただ、その人たちを奴隷として使ったのがどういう人たちだったのかは聞き逃した。
案内してくれた方のお話では、農耕文化の発達した地域には、かならず奴隷制奴隷貿易が発達するものだそうだ。現在のインドネシアなど、東南アジアも例外ではなかった。
それは、ヨーロッパによる支配よりはるかに古い歴史をもつ。
その歴史のなかで、マダガスカルへの人間の定住ということが生じた。


ぼくの思ったこと。
奴隷制は、人間の社会や経済の歴史を考えるうえで、恐ろしく根深い問題だと思う。
現在の社会においては、なおさら。
この話を聞きながら、題名を忘れたが、幻冬舎文庫から出ている梁石日の小説、タイの山岳民族の少女たちが、臓器売買や、欧米や日本などの豊かな国の人たちの性的欲望のために売買される現実をテーマにした作品を思い出していた。
奴隷を買う者(「豊かな国」の人間)自身もまた、自らが奴隷であることを欲するのだ。


② 会場には、たくさんの農具や楽器などが展示されていて、見ているだけでとても楽しい気分になった。
マダガスカルの文化は、上記のような歴史に由来するのか、他の多くの土地に見られるような、独自性の追求のような傾向があまり見られない、という話だった。
人々は、もともと居た土地だったと思われる東南アジアで用いられている道具を、そのままの形で用いていたりして、その土地独自の様式の洗練のようなものは、あまりみられないとのこと。


これはたしか、カリブ海クレオールの文化とかも、そうじゃなかったっけ?
「オリジナリティ」のようなものに、あまりこだわらない文化なのだろう。


③ マダガスカルには、バオバブという種類の樹木がたくさん生えている。
バオバブは、世界中に8種類しかない樹木らしいのだが、そのうちの6種類はマダガスカルにしか生えていないとのことである。
写真がたくさんあったが、枝に比して幹がやたら巨大なものが多く、不思議な形状だった。
そして、この巨木は、基本的にあまり人間の役に立たないらしい。樹皮を加工して、家畜を引くロープを作ったり、実の一部からジュースを造ったり、雨期に幹のなかに(サボテン同様に)溜め込まれる水を飲料などに用いる、という程度の用途しかないようだ。


それも、なんだか面白い。


④ マダガスカルには、三、四百年前まで、史上最大の鳥のひとつとされるエピオルニスというものが生息していた。その模型標本が展示されていたが、背の高さが270センチもあり、とんでもないでかさである。骨格も、ダチョウよりティラノザウルスを思わせる。
今でも、南部の海岸には、この鳥の卵の破片が大量に散らばっているそうで、それらをつなぎあわせて作った卵の標本も展示されていた。ラグビーボールの倍ぐらいの大きさである。この卵を人間が食用にとりすぎたことが、絶滅の原因とされているそうだ。


⑤ 木彫りの像などもたくさん展示してあったが、面白かったのは「アルアル」という名前のトーテムポールみたいな長い標柱。
墓標に似た意味を持つものらしいのだが、韓国の済州島などにある村境などに立っている魔除けの木の柱に感じがよく似ていた。
こういう名前だが、もちろん捏造ではない。


この展示会は今月28日まで。
秋には、インドとミャンマーの国境あたりの高地に暮らす「ナガ族」という人たちに関する展示をするそうである。
案内してくれた方は、「展示内容がマイナーすぎて研究者しか見に来ない」と笑っておられた。