テポドン・脅威と制裁

世論調査によれば、今回のテポドンの発射をめぐり、経済制裁の強化や、安保理での制裁決議案の採択を支持する声が、国内では圧倒的だという。
その動きに後押しされるように、敵基地に対する先制攻撃能力を日本が保持するべきだとの主張が、閣僚から出され、それに対する韓国の大統領府からの反論が、また大きな話題を呼んでいる。


額賀や安倍の発言については、もちろんこういう事態が起こったらこういうふうに話を進めようということが、アメリカとの間で事前に相談されていたとおりの動きなのだろう。もともとの狙い通りに事を進めようとしている、ということだ。「米軍再編」や「改憲」といった一連の予定のなかでの行動に違いない。
この動きに対して慎重なスタンスを示した小泉の反応は、今回ばかりは一応評価できる。まあ、ほとんど力を持たないだろうけど。日朝国交正常化や拉致問題の平和的解決ということについて、小泉がどれだけ本気だったのかというのは、意見が分かれるところだろうが、ぼくはやっぱり「やりたかったが、出来なかった」というのが本当のところではないかと思う。それは最終的には、アメリカの圧力に負けた、ということだったんだろう。
一方の盧武鉉だが、今回は、思い切ったことをちゃんと言った。正論だ。イラク派兵や平澤の米軍基地問題FTAなど、国内のこれまで支持してきた層のなかからも失望が広がっていた政権だが、ここでは存在感を示したと思う。これに対し朝鮮日報など、大手メディアが「国防」を唱えて一斉に反発したのも、予想通りである。


テポドンの発射に関しては、こちらのサイトの記事が、たいへん説得力があった。
http://d.hatena.ne.jp/D_Amon/20060706/p1

発射に失敗して日本の領土に落ちてしまうことを、朝鮮は一番怖れていたのではないか、という。そうならないように計算して発射した結果、飛距離が伸びずにロシア近海に落ちた、ということのようだ。
以下は、ぼくの意見。
たしかに、ロシアの近海に落ちているミサイルに、なぜこれだけ日本が騒いでいるのか、不思議な状態だと思う。少なくとも、今回の発射が、日本の本土を狙ったものでないことは明らかだろう。あくまで実験なのだから。
海上を行く船や飛行機に間違ってぶつかる可能性がなくはないので、実験を事前に周辺国に通知しなかったことは、もちろんとがめられるべきだろうが、衝突する可能性はものすごく小さいと思うので、ここまで厳しい対抗処置が必要なのか、と思う。
もちろん、実際に海上で操業している漁業関係者などにとっては、あまりに切実な恐怖であることは分かるが、それをやめさせるのにいきなり「制裁」というのは、むしろ逆効果ではないか。
グリーンピースが、今回の発射による海洋の環境汚染に警告を発したそうで、これこそ深刻な問題だと思うが、日本政府もマスコミも、あまりそれには言及してないようだ。


となると、今回の発射そのものが「危ないじゃないか!」という怒りよりも、あの国がこういう行動をとったということを、みんな不安がってるわけか。
10日、インドがやはり長距離ミサイルの発射実験をおこなったようだが、制裁とか安保理にかけるという話にはなってないようだが、何が違うんだろう?
国内における「脅威」の正体も、ぼくには疑問だが、「国際社会」(国際法とか)や国連の論理というのも、どうも分かりにくい。


まあ実際問題、国交もなく、拉致のような未解決の問題もあり、情報もなかなか入ってこない国が、今回のような行動をとり、超強気な発言を繰り返すのを聞けば、多くの人はやはり不安が募るだろうし、腹の立つ人もいるだろう。
だがぼくがちょっと言いたいのは、日本はアメリカと強大な軍事同盟を結んでおり、そのアメリカはイラクで現実にミサイルをたくさん撃って人を殺してきた。これは、実験ではない。現在も占領が続いており、そこに自衛隊も現実に行って駐留している(韓国軍も)。
日米同盟と朝鮮との力の軍事力の差は圧倒的である。この強大な勢力と対峙した場合、上記のサイトにあったように自己の「報復能力」を示しておくというのは、ぼくは支持はしないけれども、論理的には了解できる行動だろう。


「そんなことを言っても、一発ミサイルを撃ち込まれてからでは遅いじゃないか」と思うかもしれないが、そうならないようにするのが目的であれば、「制裁」は最善の手段だろうか?
その目的のためには、関係の改善こそ、もっとも合理的な手段だと思うが、なぜそう出来ないのか?朝鮮側の対応にだけ原因があるのか。
むしろ、アメリカとの関係に束縛された外交しかできないことに大きな理由があり、その束縛のなかで考えるから「制裁」や「先制攻撃」しか答えが出てこないのではないか。
それは、アメリカや、アメリカべったりの政治家たちの思う壺なのではないか?


こういうことを書いても、なんの意味もないと思われるかもしれないが、今はこういう原則的なことを言わないといけないと思うので、ここに書いておく。