労働に関する番組、二つ

共謀罪は「対抗的公共圏を犯罪化する」ものだ、ということが書かれてたと知って、渋谷望『魂の労働』を読み返している。
この本は、去年の1月にぼくがこのブログをはじめてから読んだ本のなかで、アクチュアルという意味では一番重要な本かもしれない。だが、このブログをはじめなかったら、この本に出会わなかったと思う。demianさんとかnopikoさんが話題にされてたのを読んで、こういう本があるのを知ったのだ。


労働というと、今日のNHKの「クローズアップ現代」では、企業のコールセンターが離島など過疎の地域に作られるようになっていて、その地方にかなりの雇用を産み出してるということがとりあげられていた。土地代とか人件費とか色んなコストの面で、そういう地域にできてるということらしい。
番組の中でも話されてたけど、アメリカなどでは、企業のコールセンターは海外、インドやフィリピンとかに作られるのが普通になってるらしい。インドではすごく大きな産業になってて、ノウハウとか情報も蓄積されるので、インド全体の経済力を上げるのにも役立ってるということだった。
日本の場合は「言葉の壁」があるので、労賃の安さを求めて中国や東南アジアに進出というわけにはいかず、離島などになるということだろう(番組では、五島のケースがとりあげられてた)。
番組を見てると、イントネーションを標準語に矯正されたりするのが、すごくたいへんそうだった。それに、完全な業績主義のようで、雇われる島の人たちは生活の仕方とか考え方とか根本的に変わってしまうんじゃないか、と思う。
そして、クレームの電話に対する対応は全部電話に出た人が「個人で責任を持って」やりとおすということになってるそうで、客から理不尽なことを言われても上司にも相談できず辞めていく人が多いらしい。そこをどう改善して防ぐか、業界では社員のカウンセリングが重視されてきてるらしいんだけど、これってまさに「感情労働」、「魂の労働」だよな。
生活の仕方や考え方全体が変わるという意味では、やはり渋谷の書いてる「生そのものの労働化」ということでもあるのかもしれない。


もうひとつ、労働に関するテレビ番組では、16日の日曜日に、関西地区だけで「誰も知らない戦地出張」というショッキングな内容のドキュメンタリーが放送されてた。これは、すごく力の入った番組だったけど、ちょっと視点を広げすぎてたかもしれない。
話題の中心は、イラクに行ってる自衛隊の船のメンテナンスのために、石川島播磨とか民間企業の社員がひそかにイラクへ出張させられてるということで、社員の話によると事実そうらしいのだが、防衛庁と企業が口裏を合わせてその事実を認めない(防衛庁が要請してることを認めない、ということだったかも)ということと、この出張させられた社員の身に何かがあった場合の補償がどうなうるかの規定が法的にないということとが、問題にされていた。厚生労働省も、その点の法の不備を認めながら、「そう何から何まで法でフォローできません」みたいなことを言ってた。これは、社員はたまらんだろう。


それから、石川島播磨という会社と、その労働組合の体質が問題にされていた。ここの労働組合は、会社以上に右よりの主張をしてるところらしい。まあ、アメリカなどを見ても分かるように「労働組合=左翼」なんてことはもちろんないわけだけど、ここは特に強烈みたいだった。
それで、会社から睨まれた労働者の人は、職場で(会社からも組合からも)壮絶な嫌がらせ、というより、いじめを受けるということだった。
すごかったのは、ある人は一度会社ともめごとを起こして以来、定年までの14年間、まったく仕事が与えられず何もしないで机に座ってるだけの毎日だったそうだ。これは地獄だよね。
それから、そういう人を出社させずに門のところで大勢でシュプレヒコールをして追い返すとか(映像も映ってた)、仕事中に大勢で囲んで糾弾みたいなことをするということがあったそうで、そういうときに普段職場でその当人と親しい人は、やっぱり気まずいから人垣の後ろの方で目立たないようにして加わってるんだけど、その後ろに立ってる様子をビデオカメラを回してチェックしてる上司が居て、後で呼ばれて次の日はわざと糾弾の一番前に行かされるそうだ。最悪や。
あと、住宅ローンを組むときに、会社は当然貸してくれないので、公的な機関に申請するんだけど、その場合なぜ会社は貸さないのかという理由を会社側に書いてもらわないといけないので頼んだところ、「貸すに値しない人物だから」と書かれた書類が帰ってきた、という話もあった。


なんでここまでされて辞めないのか、と思うかも知れんが、辞める理由はないもんな。みんな生活があるわけだし。
会社も首にするわけでもなく、嫌がらせのようなことを組合と一緒になって続けたわけだ。
会社側の言い分としては、この労働者たちは共産党員で、共産党員は情報を組織の上のほうに伝えなきゃいけないから、軍事産業に携わってる会社としては重要な部署に就けるわけにいかないんだということを、都の労働委員会か何かの委員に言ったっていうんだけど、ぼくもそれを聞いたときは「なんだ、組織同士の対立か」と思ってしまったんだけど、そこで納得しちゃいけないよね。
第一に、こういう扱いを受けてる人がみんな共産党員だというのは、言いがかりだそうだ。第二に、どんな理由があってもこのやり方はひどすぎる。差別でありイジメでしょ、これは。第三に、そういう政治的な理由があるなら、ちゃんと言えばいい。雇った側の責任というものもあるだろう。機密が漏洩されてると思うんだったら、訴えるなり、党に直談判すりゃいいじゃないか。
なんで陰湿ないじめみたいなことをやるのか。


どうもこの部分の印象が強すぎたんだけど、要は有事法制ができて以来の日本の企業というのは、国からの具体的な命令以前に、職場の雰囲気として、軍事的なことに協力しなけりゃいけない、というふうになりつつあるのがすごく怖い、という話だった。
印象的だったのは石破茂がインタビューされてて、人権や報道の自由もたしかに大事だけど、国があるからこそ人権も報道の自由も守られるんだから、国が危機に陥った場合にはそれが二の次になるのは当然、「ある意味、ポジとネガをひっくり返さなきゃいけない」と言ってた時の口調と顔。
こういう主張はよく聞くけど、「国が危機に陥った場合」って、あの法律も米軍再編に協力する形で今すすめられてることも、アメリカと一緒に戦争を仕掛けられる体制にしよう、ってことでしょう?
国の側がそういう「場合」を自ら作るように突き進んでおいて、その「場合」に合わせることを国民・住民や民間企業に要求するってのは、ぼくはおかしいと思う。
そういう「場合」を作らないような努力を、国の側がどれだけやってるかって、ことなんだよね。それを十分やったうえで、はじめてみんなに要求するべきことでしょう。


それと、石川島播磨とか三菱重工とか、日本の大企業における軍事部門への依存度は、まだ数パーセントに留まってるらしい。一応、「専守防衛」だったからね、今までは。
アメリカの大企業では、会社の収益の7、80%が軍事部門であげられてる、というところがざららしい。そうなってない今のうちに声をあげないと、労働者の命も権利もこれからもっと守られなくなりますよ、という番組の主張だった。
今回はMBSは、なかなか頑張ってたと思います。