伊藤仁斎・忠恕

伊藤仁斎論語古義』のなかの、『論語』の里仁篇一五の一節への「注」と「解説」から。
現代語訳は今回も、貝塚茂樹責任編集による中央公論社『日本の名著』シリーズの伊藤仁斎の巻のものを用いる。

(前略)子出ず。門人問うて曰わく。何の謂いぞや。曽子の曰わく、夫子の道は、忠恕のみ。


  自分のすべてをつくすのを忠といい、他人をおしはかることを恕という。自分の心を出しつくすと、他人と自分の区別がなくなる。他人の心をおしはかると、かゆみもいたさもすべてわが身にひしひしとこたえる。曽子は忠恕の二字で夫子(せんせい)の道をいいつくせると考えた。そこで門人に対して以上のように夫子の「一以ってこれを貫く」の本旨を解説した。


解説  (前略)いったい忠とは自分をつくすことであるから、他人に接するのに誠実で人をあざむく心はない。恕とは他人の心をおしはかることであるから、他人にたいして寛容で、薄情で残酷なところはない。忠であってそのうえ恕であったら、仁に到達できる。いまさら別の道に迷うことがあろうか。夫子は「吾が道一以ってこれを貫く」といわれ、曽子がとくに忠恕によって説明したのはまことにもっともだ。