『ブレストの乱暴者』からの引用・怒り

(前略)いま、彼のすべての怒りは、傷つけ痛めつけられて、ぐにゃぐにゃになり、少年をして、その無残な有様を嘆かしめるほどのものになっていた。怒りに対して依怙地になればなるほど、怒りは溶け、生まぬるくおだやかになり、やがて死に絶えてしまうものらしかった。足趾から乾いた眼の縁まで、ジルの身体のなかで、激しいすすり泣きの波が砕け散り、そのすべての凶暴な要素をばらばらに解体しつつあった。(ジャン・ジュネ澁澤龍彦訳『ブレストの乱暴者』河出文庫版p140〜141)