ジュネ『葬儀』を読みながら

まえにもちょっと触れた、孤独への願望は、「自負心」に他ならない。フランスとの、さらにお互い同士の関係において、そして最後は死に臨んで、対独協力義勇兵につきまとう見事なまでの孤独について、ひとこと触れておきたい。淫売婦よりも、泥棒よりも、汚穢屋よりも、魔法使よりも、男色家よりも、うっかり、あるいは好き好んで、人肉を喰らった人間よりも、彼らはもっとさらに排斥されていた。嫌われるだけでなく、けがらわしい人間に見られていた。こういう連中が私は好きだ。      (p98)

葬儀 (河出文庫)

葬儀 (河出文庫)

『葬儀』の翻訳は、文庫本で400ページほどの厚さに細かい字がぎっしりと埋まっており、例によって書かれてある内容も非常に「濃い」ことと、文体や構成が恐ろしく凝っているために、なかなか読みすすめられない。
だが一度読みはじめると、しんどくても他の本を読む気にはならないところが、ジュネの作品らしいところだ。


上の文中で「対独協力義勇兵」とあるのは、第二次大戦中、ドイツの占領下にあったフランスで、ナチスに協力してレジスタンスや連合軍と戦ったフランス人たちのことで、ジュネによれば、ならず者や不良少年のような人たちが、社会に対する反抗心から祖国を裏切る形で参加したケースが多かったように書いてある。実際のところは分からないが。
フランスが解放された後、ナチスに協力していたとみなされたり、本当に協力していた人たちが、祖国に対する裏切り者として徹底的に処罰されたり迫害を受けたという話はよく聞く。パリ解放の直後に、街頭でバリカンで丸刈りにされる売春婦の人たちの有名な映像とか。
ジュネは「裏切り」というテーマがすごく好きな人だが、この本を読んでいて分かったのは、ジュネの場合、友や祖国に対する「裏切り」は「孤独」という価値と結びついているということ、そしてフランス人であるジュネの、ナチスドイツや「対独協力義勇兵」に対する賛美や愛着は、彼の「孤独への願望」に結びついているらしい、ということだ。
ジュネのナチスへの賛美が、反ユダヤ主義と結びつくものではないようだ、ということが分かってきたのも発見だった。


読み終わるまで、まだ当分かかります。