会田綱雄「野州塩ノ湯」

以前、会田綱雄の「伝説」という有名な詩をここで紹介したと思うんだけど、同じ詩人のこの「野州塩ノ湯」という題の詩も、昔から気になっているものだ。
そんなに長くないので、今回も全文書き写してみる。

くらやみのなかで
ユン
おきろ
とわたしはいったが
けはいがして
ユンがめをさましていることは
わかっていた
夜が明ける前にいつものように
ユンはかえさなければならない
そして
てあしをのばして
ゆっくりわたしはねむりなおさなければならない
川の音がして
それは雨の音のようにもきこえてくる
ユンのかいながのびて
わたしをさぐるが
わたしはぬるぬるした汗にすぎない
かえれ
とわたしはいったが
ユンはねがえりをうって
かえらない
といった
あしおとをしのばせ
わたしは廊下に出て
崖を下った
川のほとりに
うすぼんやり電燈がともっていて
やわらかな湯気が立っている
わたしは裸になった
悲しかった
ゆあびしていると
川をつたってくるひとがある
わたしに気がつくと
そばによってきて
ビクをあけてみせた
ウグイが三匹生きている
その人も裸になって
ゆあびしながら
死んではだめです
といった
毛ぶかい人で
やにのにおいがした


この詩が、なぜ気になるのかよく分からない。
ただ、とくに最後の数行が、たいへん宗教的な感じがして、そのリズムと共にしばしば心に浮かんでくるのである。

会田綱雄詩集 (現代詩文庫 第 160)

会田綱雄詩集 (現代詩文庫 第 160)