不実な休暇

橋下市長、休暇だったので…元慰安婦に「直接聞く」

http://sankei.jp.msn.com/west/west_affairs/news/120925/waf12092513060022-n1.htm



 橋下徹大阪市長は25日、自らの慰安婦に関する発言をめぐり、「慰安婦だった方が僕に言いたいことがあれば直接聞く。日程が合えばお会いしたい」と述べ、面会する意向を明らかにした。橋下氏はこれまで「慰安婦が軍に暴行、脅迫を受けて連れてこられた証拠はない。あるなら韓国にも出してほしい」などと発言していた。

 市民団体「日本軍『慰安婦』問題・関西ネットワーク」のメンバーと韓国から来日した元慰安婦の女性が24日、橋下氏に謝罪を求めるため市役所を訪れたが、休暇をとっていた橋下氏との面会は実現しなかった。


金福童ハルモニが橋下市長に会うため、この日に大阪市役所を訪問するということは、一週間前から連絡を入れていて、団体の側は「ハルモニはご高齢なので、失礼のないようにお願いします」と電話で言ったところ、秘書からは「何がですか?」という返事が返ってきたそうだ。
つまり、橋下市長が、この日に金福童さんが来ることを知らなかったはずはなく、知っていて「休暇をとった」か、もしくは知っていて休暇の日を変更しなかったのである。
休んで何をしていたのかというと、家でパソコンに向かってたそうだ。その時間帯から考えると、たぶんツイッターでも打ってたのだろう、と言われている。
まあ、何をしててもいいが、きっと市長は金福童さんに会うことがよほど嫌だったのであろう。


ところが、金福童さんの帰国が当初から予定されていた翌25日になって、上のようなことを白々しく言う。まるで、アポもなく突然やってこられたので、たまたま会えなかったかのように言い、「あらかじめ伝えてくれてれば、いつでも会う気はある」ということを、もう帰国するという当日になってわざとらしく言うのである。
これが若者や普通の抗議者であれば、市長がそう言ってるのを耳にして、帰国の予定をキャンセルし、あらためて出向くという行動も考えられようが、ハードな旅と無礼な対応に疲れきった86歳の老人が、自分の被害体験を語るという過酷な用件(それが、市長が「出せ」と求めている「証拠」なわけだが)のために、急遽空港からとってかえすなどという行動をとる心配のないことは、さすがの橋下氏でも想像がついたのだろう。
事実、面会を拒まれた24日には、金福童さんはその酷い対応に疲れきったという感想を周囲にもらしたことがツイッターで伝えられている(市長も自宅でチェック済みかもしれないが)。
そして、市長がこのわざとらしい発言を行なった時には、ハルモニはまだ日本におられたようで、「謝罪したいならともかく、話を聞こうというだけなら面会する必要はない」と述べられたそうだが、人の心を弄ぶようなあまりに酷い対応に、もはや呆れ果てられたのであろうと想像できる。
http://mainichi.jp/area/news/20120925ddf041040009000c.html


橋下氏がただ面会を、理由をつけて拒んだ、忌避したというだけなら、あれだけのことを言い放ったくせに本当にひどいとは思うが、多くの日本の政治家とそれほど変わらない態度だとも言える。
だがここでは、「突然来られたので会えなかったが・・」という見え透いた言い訳をしてまで、「元慰安婦と会う意志のある自分」という自己のイメージを維持しようとした。それは、勇気なり、余裕をもった寛大さなり、彼が考える「強者」としての自分の政治的イメージに拘ったということだろう。
そのために、被害当事者である年老いた女性を利用し、その心を弄ぶようなことをやったのだ。


橋下氏が、それほどまでにこの女性と会うことを拒んだのは、会えば大変なことになる、大事な何かが崩れてしまうという、直感が働いたからだろう。
とりわけ国政選挙が近いこの時期に、そんな動揺した自分の姿を人前に曝すわけにはいかないと、恐れたのかもしれない。
こうした直感は、橋下氏に特徴的なもので、この人の「弱さ」(それ自体は悪いものではない)、脆弱さ、もっと言えばある種の繊細さを示していると思う。彼はそれを自覚しているがゆえに、それが露呈して自分自身も崩れてしまうことを恐れて、そのような状況を回避し、さらには小賢しい卑怯な策を弄してまで、自分の「強者」イメージを保とうとするのだ。
そこには、このイメージが失われた時に生じるであろう事態に対する、強い恐怖心のようなものさえ感じられるのである。


この「弱さ」は、橋下氏のまだしも人間的な面を示していると言うべきだろうか?
だが、きっとヒットラーのような人も、そうした自分のなかの「弱さ」に対する強迫的な自覚と抑圧から、欺瞞に満ちた独裁者の道に歩み入ったのだと、ぼくは思っている。