『モンスター』

去年見て印象に残った映画から。
『モンスター』(パティ・ジェンキンス監督)。

モンスター プレミアム・エディション [DVD]

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実在の女性連続殺人犯アイリーン・ウォーノスをモデルにした、インディペンデント風のアメリカ映画。
人気女優シャーリーズ・セロンが、役作りのために13キロ増量し、メイクで顔も変えてしまう体当たりの芝居でこの「モンスター」と呼ばれたヒロインを演じたことで注目を集めた。
セロンのこの映画での演技が話題となった理由のひとつは、彼女自身の不幸な生い立ちと、映画の内容とがどこかダブっているからだ。15歳のとき、彼女の母親は、アルコール依存症で家の中で銃を乱射した父親からセロンを守るため、彼女の目の前で父親を射殺した。『モンスター』でアカデミー主演女優賞を受賞したときのスピーチで、セロンはこの母親への感謝の言葉を第一に述べたという。


10代の頃から路上で体を売り、ヒッチハイクをして生活していたアイリーンは、持ち金が底をついて行き詰り、自殺まで考えていた矢先、酒場で家出してきた同性愛者の女性セルビーと出会い、惹かれあって一緒に暮らすようになる。その生活費のために再び路上に立ったアイリーンだが、凶暴な客に遭遇してその男を殺してしまい、セルビーとの逃避行を続けるうち、さらに殺人を重ねていくことになる。
アイリーンの連続殺人のシーンはやっぱりすごかった。最初の殺人は、正当防衛的なやむにやまれぬものだったのだが、段々他人を殺すことの不可避性に飲み込まれていくみたいになる。その最初の犯行の時の、アイリーンが男に殺されそうになる場面も本当に怖かったのだが、孫や家族の話をして命乞いをする善良そうなおじいさんを撃ち殺す終盤のシーンは、見ていて自分が殺される側に立つことを想像してしまった。


セルビーとの出会いがなければ、アイリーンは連続殺人鬼にはならなかったとも思える。最初の犯行のきっかけというだけでなく、その後の過程でもセルビーの存在が非常に重要なのだ。セルビーはすごいエゴイストというか、幼児的でエキセントリックな性格の女性に描かれていて、彼女に振り回されてアイリーンは犯行を重ねていくようにも見える。最終的にセルビーの裏切りが鮮烈に描かれているだけに、その印象はなおさら強い。
物語の終盤ではアイリーンは明らかにセルビーに対して母親的な愛情を注いでおり、それに対してセルビーの病的なまでの冷酷さが対比される構図になっている。
だが考えてみると、そもそもアイリーンはセルビーに会わなければ自殺していたかもしれないし、最初の犯行に及んだ理由はセルビーとは実は関係ない。連続殺人は、本当はやはりアイリーン自身の運命だったのではないかと思われ、セルビーへのアイリーンの献身的な愛情は、アイリーンが自分の運命を悲劇的に修飾するためのものだったのではないか、という気もしてくる。
アイリーンが押し流されていく理解しがたい暴力の過程は、彼女の人生に内在していたものと考えるべきなのだろう。そう考えると、アイリーンとセルビーとの関係は、はじめの印象とはまったく違ったものに思えてくる。そして、あのラストシーンのアイリーンの表情の意味も。


セロンの体当たり演技がこの映画の最大のウリなのだろうが、もともとこの女優さんをそんなに知らないので、どのぐらい「変貌」したのかが分からない。特別演技が上手ということでもない気がする。
それよりも、セルビーを演じたクリスティーナ・リッチが本当に凄かった。