『<不良>のための文章術』

これまで何度も内容に触れてきた、永江朗の『<不良>のための文章術』をやっと読み終わったので、書評めいたことを書いておく。


くどいようだが、この本はプロのライターを目指す人のための本である。プロとしてやっていける文章を書くための技術が、著者自身の文章の製作過程を例にして、詳しく説明されている。まれに見る実用的な本だ。
本の紹介やグルメ記事や町歩き記事などの書き方が、字数別とか、『サライ』だの『週刊プレイボーイ』だの『文藝別冊』だのといった具体的な媒体別に、懇切丁寧に語られている。
若手のためにこれだけプロとしての手の内をさらすとは、著者は実に太っ腹だ。


まえがきのなかで、著者はプロの文章を書くための大事な条件のひとつとして

文章は表現ではない。文章の主体は読み手の側にある。(13ページ)

と書いている。
名言だ。凄みさえ感じる。
ただここでいう「読み手」とは、あくまで消費者としての読者(または編集者)のことをさしている点は、おさえておくべきだろう。


この本は実用性が高すぎて、プロのライターを目指さない読者にはやや退屈な面もあるが、人に読んでもらう文章を書くための基本的な注意も、実に分かりやすく書かれていて、ためになる。
たとえば、なるべく漢字を使わないようにしたうえで、漢字とひらがなの使い分けは語句によって統一するのではなく、文面の「見た目」で臨機応変に決めているという話などは、すごく勉強になったし、面白い。
「見た目」とか「読者」とか、書くうえでつねに他者を先に立てる態度は、プロ、非プロの違いを越えて学ぶべき点が大きいと思う。


プロを目指す人のための本といっても、ブロガーにも大いに役立つだろうというのが、ぼくの結論だ。
それはこの本が、「書くこと」を職業とする人たちの現場の厳しさを、読むものに実感させるからだ。そこから何をどう学ぶかは、ブログをやっている人個々によって違うだろうが。ぼくは特に4章で語られている、コラムやエッセイの書き方についての記述が参考になった。
そのなかにこうある。

しかし、私は「コラムを書きましょう」「エッセイを書いてみよう」と安易に勧める気にはなれません。コラムやエッセイに手を染めると、友達をなくします。世間を狭くします。たえずトラブルに巻き込まれる。いや正確にいうなら他人をトラブルに巻き込むことになります。(249ページ)

これも怖いぐらい本当のことだろう。
最後の一行が特に重い。これも、他者の問題だな。


ブログを書くとき、ずっとパソコンの横に置いておきたい本である。

<不良>のための文章術 (NHKブックス)

<不良>のための文章術 (NHKブックス)

追記:どうも自分が感じてることと違うな。問題は、自分にとっての「書く」という行為に、本当に他者性の介在が必要かということなんだけど。「書く」という表出行為は、じつは他者なしで成り立つんじゃないか?