ETV特集 『敗戦とラジオ』

15日夜に放送されたもの。
地味な作りだったが、たいへん力の入った内容だったと思う。
http://www.nhk.or.jp/etv21c/backnum/index.html


とくに考えさせられたのは、アメリカの占領当局の担当者は、NHKの政治風刺の番組『日曜娯楽版』が日本の再軍備問題や内政問題を風刺する分にはむしろ好意的で(アメリカに関する風刺・批判は決して許さなかったが)、サンフランシスコ条約で占領が解かれて彼らが日本を離れることになった時、この後この番組が日本政府やNHKに潰されないかどうか関係者は心配してたのだが、その通りになった、という話。
つまり占領軍の存在というのは、アメリカへの批判を決して許さないという意味では、たしかに絶対的な支配権力であったし、また朝鮮戦争の遂行にNHKを協力させる(むしろNHKの側が積極的に関わった、ということが語られていた)などのことはあった。
また、今のイラク占領に関してもそうだが、この国の場合、占領している国を「民主化」するという理念と、その国や他の国を時にはジェノサイドに類したやり方をとってまで攻撃して叩きのめす蛮行とが矛盾しないようなので、「なんのかんの言ってもアメリカは日本に民主主義を持ち込んでくれたのだ」などと単純に賞賛するわけにいかないのも事実である。
しかし日本の場合、占領当局(アメリカ)という盾(ここではNHKにとっての)がなければ、民主的な放送の自由・独立などということは、国家権力によってたちまち潰されてしまうという事実を、このエピソードは、端的に語っているだろう。
そして、この国家の力による事実上のマスコミ支配・管理という現実が、現在まで(もちろんNHKをはじめとして)続いているということまで、この番組は暗に語っていたと思う。
その点で、勇気のある番組作りだと思った。


日本人が、自分たちや自分の国の行ってきたことを引き受けないままに、占領下でアメリカの庇護の下に得たつかの間の(自国の政府からの)「自由」、「民主主義」、政府からの独立というものは、たしかに多くの欺瞞を含んでいただろう。
だが、そうした欺瞞に満ちたものであっても、それがなければこの国では一切の市民的な自由はたちまち危機に瀕するのだということ、それほどにもこの国の体質は反民主主義的なものだということを、戦後の歴史と、とくに現在の状況は教えている。
つまり、「戦後民主主義」を否定したり、アメリカへの従属からの脱却を唱えることは、それぞれ根拠のある主張だろうが、少なくともわれわれが「自由」を守る手段として存在してきた(それが使われたことがあったかどうかは別にして)「戦後民主主義」をただ性急に捨て去るだけで、それに替わる自前の「自由」を守る手段を用意していなければ、われわれは今度こそ完全に、「戦争をする国家」の支配に飲み込まれる。
それほどに、日本という国家の抑圧的な体質は強いのだ。
占領下でわれわれが手にした、このまがいものの自由を、ただ「まがいものである」と言って捨て去れるほどには、われわれはまだ国家に対抗する力を持ちえていないと、ぼくは思う。