私と世界陸上・抗議

2月のテント強制撤去のときのことがあるので、「世界陸上」という言葉を聞くだけでずっと嫌な思いがしていた。テレビを見ててもそれに関連した場面は、なるべく見ないようにしていた。
それで開催初日の25日は、さすがにテレビ中継も見なかった。
ところが日曜日の夜、他に見るものもないのでなんとなく「世界陸上」の中継を見始め、そのまま最後まで見てしまった。月曜の夜も少し見た。


われながら、情けない気もする。
「一生懸命やってる選手に罪はないから」とか「スポーツなんだから」と言い訳を言う気にはもちろんならない。
野宿のおっちゃんたちだって、一生懸命あの公園で生きていたのに罪もなく追われたのだ。スポーツといっても、生きていればこそ出来るもので、あの日否定されたのは、その「生存」そのものではなかったか。


それに、そうしたことが分からなくなるぐらい競技に熱中するほどのスポーツファンでは、もともとない。
どちらかといえば、ぼんやり見てる。
「感動」を強いてくる報道にはうんざりだ。たとえば、100メートルの予選で負けた直後の朝原のインタビューは、「出来事」と呼んでいいほどのすごい映像だったと思うけど、それを作り出してしまった一因であるインタビュアーの無遠慮な質問の暴力性が、翌日(月曜夜)の編集された画面では削られていて、「出来事」が陳腐な「感動」に変わってしまっていた。
ぼくはああいうところに、野宿のおっちゃんたちの人生や「顔」を「消し去った」ものと同じ暴力が、報道という形式による「生の商品化」みたいな形でスポーツ選手個々の心身にふるわれているみたいに感じる。


いや、それはいいんだけど。
ともかく、スポーツがそんなに好きだから見ているというわけでもない、という話である。
ただ意味もなく、「世界陸上」の中継を時々見ていて、分からないながらに、競技自体はたしかになかなか面白いとも思う。
自分としてはそのことを「情けない」とも思うが、それだけのことでもある。
そんなことより、もっと大事なことは他にあるだろう。


ただ、あの強制撤去であの場所を追われた人たちが、どんな方法であのイベントを非難し攻撃しようとも、ぼくはそれを批判しない。
今回、抗議の声をあげようとしていた元テント村住人の一人、Nさんが警察に不当逮捕されたことは、先日伝えたとおりである。
Nさんもまた、強制撤去される前のあの場所で、多くのことを体験し、それを根こそぎに奪われた一人だったと思う。
そうした小さな「声」の予防的な剥奪に、あらためて抗議する。


以下、「釜パト活動日誌」より転載。

(以下、転送歓迎)
大阪府警による弾圧を許すな!
N君を今すぐ返せ!


大阪府警によるまたしてもとんでもない弾圧が起こりました。
8月24日午後1時ごろ釜パトのメンバーであるN君のアルバイト先や別のメンバー宅ともう1ヵ所が家宅捜査され、N君は逮捕されてしまいました。
逮捕理由は「道路運送車両法違反」という耳慣れない法律ですが、要するにN君が大阪市内では使用してはならないディーゼル車を昨年中に市内で運転したということです。しかしN君はこの車両を半年以上使っていません。
驚くべきことに、このような事例で逮捕されたのは日本で始めてということです。なぜそうまでして大阪府警はN君を逮捕する必要があったのか。


それはN君が長居公園の強制排除や住民票の強制削除など日雇・野宿労働者への攻撃に対しての抵抗を先頭で闘っていたからであり、だからこそ大阪府警世界陸上開会式前日にN君をこのような「微罪」で逮捕したのです。
これは世界陸上開会式への抗議の声を圧殺しようとする予防拘禁に他なりません。私たちはこのような大阪府警の弾圧を絶対に許しません。


知っての通り、今年の2月5日大阪市はN君ら長居公園で生活していた野宿の仲間のテントや小屋を強制撤去しました。それは5000筆を越える強制撤去反対署名を無視し、ヤラセで「排除を求める地域の声」をつくりだし、多額の税金を投入して、野宿の仲間たちの要求や質問に何一つ答えることなく強行されたのでした。
なぜこのような暴挙を強行したのか、その理由は明らかに天皇出席の世界陸上のためです。
野宿者の強制排除と天皇制や国際的なイベントは決して無関係ではありません。これまで天皇や皇族が出席する式典のために、そして「国威」の発揚が迫られるオリンピックなど国際的なイベントのたびに、目障りとされた野宿者はまさに「ゴミ」のように排除されてきました。昨年のうつぼ公園の代執行であり(世界バラ会議)、2005年名古屋白川公園の代執行であり(愛知万博)、長居公園でも97年なみはや国体、2002年サッカーW杯の時にも野宿者排除の嵐が吹き荒れました。
また大阪市は日雇・野宿労働者2088名もの住民票を強制削除し、高齢日雇労働者や野宿者の失対事業である「高齢者特別就労事業」(年間約3億円)を「予算がない」という理由で削減する計画を進めています。一方で世界陸上には40億もの税金を投入しながら!
大阪市天皇出席の世界陸上を利用して「環境美化」「公園整備」の名目で野宿の仲間を排除し、仲間の生きる条件を次々と奪おうとしています。そしてその動きに呼応するかのように警察はN君を「微罪」で逮捕し、世界陸上開会式への抗議の声を圧殺しようとしたのです。今どきこんな無茶な手法を使って!


うつぼ・大阪城公園長居公園の強制撤去、昨年の9・27弾圧(反排除を闘う5名の仲間の逮捕。今年8月9日には全員が執行猶予で釈放)、住民票の強制削除、特別就労事業削減計画、司法・行政が一体となって貧困者の生きる条件を次々に奪おうとしているのです。
貧困者への戦争、棄民化政策とも言える状況の中で行われる世界陸上、そして今回の弾圧を私たちは絶対に許せません。
ぜひとも多くの皆様が私たちと共に抗議の声をあげていただくように心から訴えたいと思います。


野宿者排除の世界陸上弾劾!
大阪府警はN君をすぐに返せ!
弾圧粉砕!闘争勝利!


釜ヶ崎トロールの会
kamapat@infoseek.jp


大阪府警に抗議の声を!
大阪府警察本部
〒540-8540 大阪市中央区大手前三丁目1番11号
TEL06-6943-1234


(転載以上)