否定的なメッセージの内面化について

昨日書いたことについて、何点か補足しておきたい。
当面、話の大枠を見極めていくために、一般的で大雑把なことばかり書き連ねることになるのを、お許し願いたい。正直、こんな抽象的なことしか書けないのが恥ずかしい。

経済のグローバル化と否定的な感情の関連

まず、現代の特に若い人たちが自分に対して抱いている否定的な感情や衝動と、親や他人に対する「物象化」的な認識や態度との関係についてだが、これは自分が学校や家庭、それからメディアや地域社会などの「社会」から受けた否定的なメッセージ(「お前には価値がない」「お前はゴミ同然だ」)を、本人が内面化することによって生じると考えられるだろう。
この外からの否定的なメッセージが発せられる理由は、本人の社会的な属性(国籍、民族性、性別*1、心身の障害の有無、経済的な条件、容姿などなど)によって様々なものが考えられるし、そのような明確な理由がないことももちろん考えられる(ただし、「理由のある」と「理由なき」との線引きは事実上不可能だろう)が、今日の社会では経済のグローバル化*2新自由主義経済の進行が引き金になって、「社会」や学校において、「能力」や階層による選別が急速に進んでいると考えられる。これが大きな要素として作用しているのではないだろうか。
ぼくが中学校を出てから30年近く経つが、学校はどんどん非人間的(これも検討を要する言葉だが)になり、管理の厳しい場所になってきているという話をよく聞く。また現在では、おそらく経済のグローバル化や「少子化」の進行などに関連した社会的・経済的な理由から、国家の公教育に対する介入が表面化しているという特異な事情が日本社会にはある*3。いずれにせよ、学校は今日の日本ではどんどん「窮屈」な抑圧的な場所になってきていて、ここで子どもたちの多くに否定的なメッセージが注がれ、内面化されている可能性は高い。
ところで、経済のグローバル化新自由主義経済に起因すると考えられる、こうした否定的なメッセージの発信という事態は、学校だけでなく、「社会」や家庭においても子どもたちを襲うものだと考えられよう*4

また、グローバル化は、近代の世界の運動そのものだとも言われているから*5、やはり「否定的なメッセージ」の発信は、世界の文明と社会の近代以後におけるあり方、日本の近現代社会の性格ということに結び付けて捉えることが、最終的には必要であろう。
近代人に子どもの頃から植え付けられる他人を物象化する価値観が、大資本や「先進国」による収奪や環境破壊といった大枠の事柄ばかりでなく、社会的な「イジメ」「バッシング」やあるいは「ひきこもり」「自殺願望」などの様々な否定的な衝動の遠因となっているという見方ができるのではないだろうか。

整理 二つのタイムスパン

結局、二つのものを区別する必要がある。
近代以後の世界に一般的(グローバルとローカルの二面を持つが)な、自他の存在や世界といった経験的実在を物象化する価値観の弊害ということと、20世紀の終わりから始まった狭義のグローバル化の進展と福祉型の国民国家の動揺に伴う、新自由主義的な「選別」のメッセージの具体的な影響ということである。また、後者について(前者に関してもだが)、特に日本社会に固有の要素をよく見極めねばならない。
(「国民国家の動揺」ということに関して言うと、それが始まった70年代中ごろに思春期を送ったぼくの経験から言うと、それは「死と生の意味づけの喪失」という社会心理学的な事柄と関連しているように思う)*6

補足 非言語的メッセージ

それから、この「メッセージ」ということについて言うと、これは言葉によるメッセージばかりでなく、非言語的メッセージを含むことは言うまでもない。「冷たい」眼差しや態度、親や教師、友達やマス・メディアから浴びせられる冷笑や、あるいは具体的な排除や差別の暴力といったものは、かえって言葉以上に人を傷つけ、否定的な感情を植えつけるのに寄与するだろう*7
ベイトソンダブル・バインド理論*8は、基本的に現在でも有効であると思う。

*1:ジェンダーに関する事柄にはどこまで踏み込めるか分からないが、自分の母親のことを見ていて、家父長制的な考えが強く残っている家族に生まれた長女が抱える困難、といったことを考えずにはおれない。つまり、彼女ははじめは溺愛されるかも知れないが、本来「家」が求めているのは「男の子」だから、弟が生まれた途端に自分に対する親の態度が一変するということが起こりうる。つまり、手のひらを返すようにして「お前は価値がない」というメッセージを受取ったようなショックを受けるだろう。こうした経験は、本人のその後の対人関係のあり方に重大な影響を及ぼすのではないかと思う。

*2:この言葉に関しては、有名な解説書だが、ぼくはこの本が大変参考になった。

新書150グローバリゼーションとは何か (平凡社新書)

新書150グローバリゼーションとは何か (平凡社新書)

 でも正直、ほとんど内容を覚えてない。また読まなきゃ駄目だな。

*3:この事柄をどう捉えるかについては、色々な見方があるところだろう。ぼく自身は、今の日本は「戦時体制」に入っていると思うが、今はそのことには触れない。

*4:この場所で、ぼくの個人的な体験をどれだけ、どんな形で書いていくか、決めていない。もしそれを詳しく書くとすれば、学校や家庭で自分が受けた「否定的なメッセージ」のことを思い出して書かなければいけないだろう。

*5:前掲書 p60以下

*6:もちろん、この本が重要な示唆を与えてくれるだろう。

*7:実際、言語というものの情報量などは、高が知れているともいえよう

*8:

精神の生態学

精神の生態学

。ぼくが若い頃はすごくよく読まれた人だけど、最近はどうかな?