『Dinah Jams』

Dinah Jams

Dinah Jams

「ブルースの女王」と呼ばれた名歌手ダイナ・ワシントンをフューチャーして、当時アメリカ西海岸を中心に活躍していた人気ジャズメンが熱演を繰り広げたジャム・セッションの実況録音。
このアルバムも、もう25年ぐらい聴いている。


1954年の夏に行われたこのスタジオでの公開録音は、実に20時間にも及ぶマラソン・セッションとなり、計12曲が録音されたという。あまりにも時間がかかりすぎて、聴衆のほうは途中でバテバテになったのか、適当に拍手したりしてる曲もあるのが可笑しい。冒頭から盛り上がりすぎたんだろう。
結集したメンバーは、「ブラウニー」の愛称で親しまれた不世出の天才トランペッター、クリフォード・ブラウンをはじめ、当時ダウンビート誌の人気投票で何年も続けてトランペット部門の一位をとっていたメイナード・ファーガソンマイルス・デイビスの師匠としても知られるデューク・エリントン楽団の花形トランペッター、クラーク・テリー、日本でもひそかに人気のあるテナー・サックス奏者ハロルド・ランド、それに黒人解放運動の闘士としても知られるモダンジャズ史上最高のドラマー、マックス・ローチなど計11人。実に豪華な顔ぶれだ。


曲目としては、1曲目の「恋人よ我に帰れ(LOVER,COME BACK TO ME)」の勢いがなんといっても圧巻ではある。この曲は誰がやっても名演になるという感があるが、ここでのダイナ・ワシントンの歌声を聞くと、もともとこの人のために作られた歌ではないか、という気さえしてくる。とにかく、圧倒的なパワーである。
ダイナ・ワシントンって、たしか10回ぐらい結婚してるんだよなあ。
この人の歌が持っているバイタリティーとかポジティブな精神性は、マヘリア・ジャクソンとも、ビリー・ホリデイともまったく異なる、独特なものだ。
また、上記の人気トランペッター三人の競演が聞ける「アイヴ・ガット・ユー・アンダー・マイ・スキン」も聴き応えがあるが、よく聴いていくと最後に入っている「ユー・ゴー・トゥ・マイ・ヘッド」がたいへんな名演であることが分かってくる。


ダイナの素晴らしい歌唱を引き継いだ、アルトサックス奏者ハーブ・ゲラーのご機嫌なソロにはじまって、それに劣らぬピアノのジュニア・マンスの好演の後、ミュートを使用しまるで眠りこけてでもいるような弱い音のスロー・テンポで展開されるクラーク・テリーのプレイが、何度聴いても飽きない見事さだ。このアドリブに即座に対応するマックス・ローチのサポートも、いつもながら絶妙である。そして、この老練な逃げ馬のようなテリーが作り出したそれ以後の超スローの流れに見事に対応し、朗々と「ブラウニー節」を聞かせる若干23歳のクリフォード・ブラウンの大物ぶりには、あらためて感心させられる。


26歳で死んだブラウニーの夭折はあまりに有名だが、実はダイナ・ワシントンも39歳で世を去っている。その短く強靭な生涯で「ブルースの女王」がこの世に残した、このアルバムは大輪の花のひとつといえるだろう。