『笹の墓標』

北海道での朝鮮人労働者の遺骨発掘と返還をメインテーマにして、日本と韓国の各地で活動してきた東アジア共同ワークショップ。1997年以来続くその歩みを記録した、影山あさ子・藤本幸久監督による長編ドキュメンタリー映画、『笹の墓標』の試写会が、先日大阪市内で行なわれ、その一部を鑑賞した。
http://sasanobohyo.blogspot.jp/



この映画は、五部からなり、上映時間9時間を越えるというたいへんな大作なのだが、僕が見たのはそのうち、第二部と第三部。
第二部は、北海道の稚内に近い浅茅野というところで、2006年を中心に数回にわたって行われた遺骨発掘作業の様子を克明に捉えている。
また第三部では、韓国での遺族調査と遺骨返還の様子や、遺族への聞き取り、遺骨に対面して感情を噴出させるその姿などが、生々しく描き出される。
僕自身、この東アジア共同ワークショップに何度も参加し、発掘を手伝った経験があるが、初めて見る映像も多く、その内容には深く心を揺さぶられた。
長丁場の作品であり、このワークショップをご存じない方々がどのように感じられるかは分からないのだが、歴史や現在との向き合い方を考えるきっかけとしても、多くの人たちに見てもらいたい作品だと思った。


僕の場合、古いメンバーとして、どうしても内からの目線でワークショップを考えがちなのだが、この作品では、「遺骨」というものに焦点を合わせて大きくこのワークショップの全体像が捉えられており、自分たちが関わってきた活動が、他者(遺族や社会)にとってどのような意味を持つものかということを、あらためて実感できたと思う。
個人的には、これは大きかった。


特に印象的であった箇所をひとつあげると、第二部のなかで、韓国の絵本作家らしい女性が、遺骨を掘りながら感想を聞かれ、次のように言う場面がある。
日本人のしたことは恥ずかしいことだと思うし、この遺骨(犠牲者たち)の存在を忘れて放置してきた私たち韓国の市民も恥ずかしい。また日本だけでなく、韓国もベトナム戦争においては重大な加害行為を行った。
日本や韓国の社会が、その加害性や死者たちの存在に向き合わずに来たということは、何より加害国の子どもたちに対して申し訳ない。
何故なら、私たちが歴史に向き合わずに来たことは、加害国の子どもたちのなかに大きな心の傷を残すはずだから、という言葉である。
この「心の傷」という表現は、日本での遺骨発掘・返還運動の中心人物である人の言葉の中にも、「遺骨をこのように返還出来て、私たちも心の傷を癒すことが出来ました」という風に出てきたと思う。
これらの言葉を聞くと、歴史に向き合おうとする意志や行為の有無と、現在における個々の人間の生き方や内面とが、根底のところでつながっているという、私たちの社会の問題をあらためて考えざるをえない。


発掘される遺骨は、朝鮮人の場合、ありえない形に折り曲げられて樽のようなものに押しこめられていたり、首が切断されていたり、死んでもまったく人間として扱われていないことが分かる。
また、札幌別院というところに保管されている朝鮮人の遺骨は、101人分の骨が混ぜこぜにされて、三つの容器の中に入れられており、個別化など不可能である。
それらは、人間ではなく、たんに物として扱われ、処理されている。これは、北大に保存されてきたアイヌの人骨などとも同様な、無残な扱われ方である。
そして、国も行政も企業も、これらの遺骨に関して、今なおなんら誠意ある態度を示していないのだ。
こうした映像と、遺骨を目の前にした遺族の姿をスクリーンで見た人は、日本社会や東アジアの現状を重ね合わせて、きっと多くのことを感じられるだろう。


遺骨の発掘やその返還という行為、またそれを中心テーマにしたこのワークショップのような共同的な実践は、たんに過去の事実を明るみに出すというだけではなく、過去に目を閉ざさず向き合うことを通して、社会と個々人の現状を内側から変革し、解放し、それによってよりよい未来を実現していこうとするものであると、この映画によって今更ながら教えられたと思う。



上記ホームページから、今後の各地の上映予定を転載します。

シネ・ヌーヴォX(大阪) 11月2日(土)〜22日(金)

11/2(土)〜11/8(金) 
11:00〜 第一章/13:20〜 第二章/15:20〜 第三章/17:30〜 第四章/19:50〜 第五章
11/9(土)〜11/15(金) 
11:00〜 第四章/13:20〜 第五章/15:30〜 第一章/17:50〜 第二章/19:50〜 第三章
11/16(土)〜11/22(金) 
11:00〜 第一章/13:20〜 第二章/15:20〜 第三章/17:30〜 第四章/19:50〜 第五章
*11/21(木) 17:30&19:50の回、休映

5プログラム券 前売3000円/当日4000円
前売り券販売場所:劇場窓口の他、
影山までご連絡いただければお送りいたします
(代金は到着後、同封の郵便払い込み用紙でお振込みください)

当日料金:1回券1500円/学生1200円/会員・シニア1000円



名古屋シネマテーク(名古屋) 11月2日(土)〜8日(金)
10:30〜第一章/ 13:00〜第二章/ 15:00〜第三章/ 17:10〜第四章/19:30〜第五章

5プログラム券 前売3000円/当日4000円
前売り券販売場所:劇場窓口の他、
藤本までご連絡いただければお送りいたします
(代金は到着後、同封の郵便払い込み用紙でお振込みください)

当日料金:1回券1500円/学生1400円/中高生1200円/シニア1000円



光塾(東京・渋谷) 12月14日(土)〜23日(月・休)