『ロルナの祈り』

先日見た映画だが、大阪ではまだ上映があるようだ。
『ある子供』などが日本でも評判になったダルデンヌ兄弟の新作。


http://lorna.jp/


(以下、一部ネタばれ)


主人公のロルナは、アルバニアからベルギーにやってきた女性だが、国籍取得のために麻薬中毒の男性クローディと偽装結婚している。
一方で、彼女にはアルバニアから一緒に出てきて、いまはイタリアで働いているらしい恋人のソコルがおり、二人で店を持ちたいというのが将来の夢である。
彼女は、タクシー運転手でブローカーでもあるファビオという男の指示で動いている。ファビオの立てた計画では、ロルナの国籍取得後、クローディを殺して、ロルナを別の外国の男とまた偽装結婚させるという計画になっているらしい(ソコルも、こうしたことを知っている。)。
だがロルナは、精神的に彼女を頼り続けるクローディと一緒に暮らすうち、彼の命を助けたいと真剣に思うようになる。


この映画で一番強い印象を受けるのは、一度はクローディの命を助けたいというロルナの願いがファビオに聞き入れられ(これはファビオの嘘である)、ロルナの愛によって麻薬からも抜け出す前向きな日常に向かっていくかに思わせる場面の後で、唐突にクローディが殺された後の、一見淡々としたロルナの様子を映し出すシーンに移行するところだ。
この転換が、非常に効いている。
ロルナの愛や祈り、二人の淡い希望のようなものは、あっけなく打ち壊されるのだが、ロルナは強い怒りを内に秘めながらも、表面は表情を変えることがない。残酷な日常と自分の冷徹な役回りを受入れたかのように、ファビオに対しても、ソコルに対しても振舞うのだが、しだいに自分のなかに生じたある変化に気づくことになる。


ロルナは、ファビオだけでなく、ソコルの支配にも気づいて、そこから脱しようとするのである。
最後の場面で、彼女は追っ手を逃れて、深い森の奥の小屋に身を隠し、祈りの続き、希望の続きを紡ごうとする。それは、グリム童話などに出てくる、太古から続くヨーロッパの森のイメージを思い出させる場面である。