この本は、たまたま古本屋の店先で見かけて(出版は去年)、そんなに期待もせずに読み始めたのだが、とくに後半は引き込まれて読んだ。
ルポとしても、創作としても、また作品論・作家論としても、すぐれていると思う。たいへんな力作である。
中上については多くのことが語られ、ぼくもそれなりに読んできたつもりだが、再認識させられることが多かった。
- 作者: 高山文彦
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2007/11/14
- メディア: 単行本
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人間中上健次を描く、著者の視点は、「あとがき」に全文が引かれている、死の二年前に中上が娘に送った手紙の文章に込められた思想と重なっているといえる。
その引用された故人の私信の一部分だけを引くのは、申し訳ないが、ブログ上の文章ということで許してもらおう。最後の二つの段落である。
菜穂は飢えてはいない。ではどうして、他から飢えた子供の泣き声が聞こえるのか。菜穂はその矛盾を考えてほしい。問題があるなら、それを解いてほしい。もし不正義があり、そのためだというなら、不正義と戦って欲しい。
しかし戦いは、暴力を振うことだろうか?違う。人間の存在の尊厳を示すことだ。そのためには、英知が要る。菜穂が、この学校で学ぼうとしていたことは、不正義と戦う本当の武器、つまり人間の存在の尊厳を示す方法だったのだ。頑張れ。心から愛を込めて、声援を送る。(p413)
この本によって、中上健次はあらたな相貌をもって、現代に蘇ったといえるかもしれない。