有馬記念予想

ディープインパクトが外を回る競馬しかしないのは、単純に馬体が小さいためだろう。前走、菊花賞時の馬体重は444キロ。おそらく今回(有馬記念)出走の16頭のうち、もっとも数字の小さいのがこの馬だろう。競走馬の大型化の趨勢は顕著で、なにしろ牝馬ヘヴンリーロマンスでも軽く500キロを越えているのだ。
競走中他馬と比べて二回りぐらい小さく見えるこの馬は、内に入れて馬群にもまれると消耗が大きいことが予想される。
ぬきんでた力があっても、馬場の悪い外を回ると滅多に差しきれることがない中山コースは、その意味からもこの馬には不向きである。


この小柄な競走馬が、本当にシンザンシンボリルドルフなどと肩を並べ、それを越えていくほどの名馬なのかどうか、その答えはこの有馬記念を見てからでなければ分からない。
冷静に考えると、ゼンノロブロイなど何頭かの古馬と共に、主力級の一頭を形成しているという評価が、今回は妥当なのかもしれない。
実際、昨日の時点までは、このレースの中心をディープにするつもりはほとんどなかった。


しかし昨日たまたま、九月の神戸新聞杯を見た直後に、ある競馬好きの友だちに向って「今後ディープインパクトが引退するまで、この馬のレースは馬単一点で勝負する」と啖呵をきったことを思い出してしまった。
それで、今回はこの公約を守ってみようと思う。


ディープインパクトという馬の最大のセールスポイントは、成績が示すように、これまで一度も負けていないということ、そのものだ。
これは、「不敗」であるという「絶対的な強さ」に価値があるのではなく、苦しい状況になっても他の馬に競り負けない勝負根性があるということだ。この一点で、この馬は古馬の強豪たちを一歩リードしている気がする。
これまでの戦歴のなかで、この長所がはっきり示されたのは、中山での弥生賞と、菊花賞であったと思う。
ぼくの考えだが、競馬というジャンルは、「勝ち続ける」ことよりも、勝ち負けをどうしのぐか、負けてどう立ち直ってくるかの方に価値がある。競馬で「勝たなければならない」とか「勝たなければ意味がない」といわれるのは、そういう意味である。
その意味では、ディープインパクトは、過去の超一流馬と肩を並べうる精神力を持った馬であるようにみえる。
決して楽観できない条件である今回だが、この馬が勝つことに賭けてもよいと思える理由は、これである。


ディープのことはそれでいいとして、一点買いの相手をなににするか。
古馬のなかでは、やはりゼンノロブロイが一番上位であるとは思う。
しかし、これとの比較ならもう一頭気になる馬がいる。
それは、リンカーンだ。


前走ジャパンカップの4着は、苦手東京コースを克服して、3着のゼンノとは同タイムに迫ったもの。中山なら逆転も可能ではないか。現実に、一昨年のこのレースでは、ゼンノを抑えて二着に食い込んでいる。
勝つのはディープとして、古馬最先着がこの馬でもなにもおかしくないと思う。
鞍上は、主戦武豊から乗り替わる横山典弘。上述の弥生賞菊花賞で、二度にわたって武―ディープを苦しめた騎手である。G1でこのぐらいの人気のとき、もっとも恐い騎手であることは、競馬ファンなら誰でも知っている。
一頭相手を選ぶなら、やはりリンカーンだ。


そこで、このレースの馬券は馬単で⑥から⑭の一点。
運がいいときは、これでもとれるものである。


最後に書いておくと、この有馬記念が、ディープインパクト自身にとって「絶対に勝たなければいけないレース」であるとは、ぼくは思わない。
馬券上の人気や、「不敗」「最強」といったことへの期待を言う声が多いが、馬券好きの金銭欲にも、競馬ファンロマン主義にも振り回されることなく、この馬には自分の走りをしてほしい。
「競走馬は、人間の願望を充たすために走っているわけではない」というのは、競馬に関する、ぼくのもっとも好きな言葉である。


明日も馬券は買わないで、家でレースを見てようと思う。