民主主義の危機?

非常に単純なことなのだが、アメリカ大統領選に関する報道や記事を見ていて、思うことがある。
それは、とくに民主党の支持層の人に多いのだろうが、ブッシュ政権下のアメリカ社会の状況を批判するのに、「9・11以後、この国はおかしくなった」とか「民主主義は危機に陥っている」といった言い方がされることについてである。


たしかに、「テロとの戦争」をはじめて以来のアメリカ社会の変質ぶりは、多くの人たちが批判してきている。非常に悪い状態なのだろう。
だが、「9・11以後」の変化を強調する人たちは、そもそも「9・11」の事件、とくにその原因についてどのように考えているのだろうか?
それは、中東をはじめ世界の貧しい人たちの状況や、心情といったものとはまったく無縁な、犯罪集団による破壊行為であるというブッシュ政権の公式見解に、基本的に同意している、ということだろうか?


9・11」というあってはならない、悲惨な出来事を教訓として、アメリカが世界に対して行ってきたこと、なおいっそう破壊的に行い続けている事柄、暴力を、反省し、あらためて行こうという気持ちが、この人たちにはないのだろうか。
中東に限って言っても、そもそも戦後の歴史において、イスラエルに対するコミットを深く行ってきたのは、共和党よりも民主党政権の方である。
共和・民主の別を問わず、アメリカがこれまで一貫してとってきた対外政策や行動によりもたらされた歪みが、暴力をさまざまな形で増大させ、そのひとつの見やすい形として、「9・11」のようなテロ行為を生じさせたのである。
だとすれば、「9・11以後」にもたらされたアメリカ社会の変質とは、アメリカがこれまで外に対して行使してきた暴力の反映であり、それを批判するということは「9・11以前」の自国のあり方と行動に対する批判なくしては正当なものでありえないはずである。
アメリカで、ブッシュ政権下の「民主主義の危機」を批判する人たちの、どれだけがこういう立場に立っているだろうか?
告発され、糾されるべきものは、アメリカの「民主主義」それ自体である。