キヌカツギ

古井由吉の競馬エッセイ集『折々の馬たち』の一節。
雨の土曜日の中山競馬場で午後のレースを楽しんだ帰り、中山法華経寺の境内の茶店に入って、里芋を皮のまま茹でた「キヌカツギ」が笊に盛られて並べられているのを肴に酒を飲むくだり。

店の中に入って、酒を注文して肴にそのキヌカツギを頼むと、店先から笊のままさっと持ってくる。これが美味いのだ。酒にもよく合う。芋の尻を指さきでつまんで、ちょいと押さえると、つるりと白い艶やかな肌が剥ける。色っぽいものだ。小皿の荒塩をつけて唇へ運び、ほのかな甘みを呑みくだすと、荒塩をまたすこし指につけて口の中を締め、酒を惜しみ惜しみふくむ。そう言えば十五年ばかり前までは、この近辺、里芋の畑だらけだったような気がする。秋口にはその青い葉がはるばると繁りわたる。(p158〜159)

これ、ほんとに美味そうだ。
ことに、最後の現在形(未来形?)で書かれた回想の見事さ。


まだ熱があるのに、夜中に酒飲んじゃったよ。

折々の馬たち

折々の馬たち