『病むことについて』

病むことについて 新装版 作者:ヴァージニア・ウルフ みすず書房 Amazon 1925年に書かれた「『源氏物語』を読んで」という文章の中で、ヴァージニア・ウルフはこう書いている。 『紫式部はたしかに、芸術家にとって、特に女性の芸術家にとって、この上も…

『増補 闘うレヴィ=ストロース』

増補 闘うレヴィ=ストロース (平凡社ライブラリー0886) 作者:渡辺 公三 平凡社 Amazon 本書によると、若い頃、社会党系の青年団体の熱心な理論家・活動家だったレヴィ=ストロースは、社会主義的な制度変革と同時に、あるいはそれ以上に、社会に倫理性をもた…

『資本主義と奴隷制』

資本主義と奴隷制 (ちくま学芸文庫) 作者:エリック・ウイリアムズ 筑摩書房 Amazon エリック・ウィリアムズの『資本主義と奴隷制』。 まず、書かれたのは第二次大戦中。著者は、トリニダード出身の黒人の学者だが、運動家・政治家としても著名な人で、後に同…

『増補 エル・チチョンの怒り』

図書館が休館中ということもあって、かなり久しぶりに本屋で新刊の本を買った。 岩波現代文庫の『増補 エル・チチョンの怒り』(清水透著)だ。 増補 エル・チチョンの怒り: メキシコ近代とインディオの村 (岩波現代文庫) 作者:透, 清水 岩波書店 Amazon こ…

『飼いならす』

飼いならす――世界を変えた10種の動植物 作者:アリス ロバーツ 発売日: 2020/10/16 メディア: 単行本 この本をはじめて知ったのは、たしかジェームズ・C・スコットの『反穀物の人類史』を読んでいてだったと思うが、邦訳されて去年は新聞紙上で多くの人が高い…

ホブズボーム『いかに世界を変革するか』

いかに世界を変革するか――マルクスとマルクス主義の200年 作者:エリック・ホブズボーム 発売日: 2017/10/31 メディア: 単行本 本書に書かれているホブズボームの考え方の大きな特徴は、マルクスの思想の発生とその後(現代まで)の動向を、特に19世紀で(…

『マツタケ  不確定な時代を生きる術』

マツタケ――不確定な時代を生きる術 作者:アナ・チン 発売日: 2019/09/18 メディア: 単行本 『人間が発生を管理することができないキノコの生命は、わたしたちが所与のものと考えていた社会が崩壊したときには、恵みであり、拠りどころともなる。(p5)』 …

『宇宙の始まりと終わりはなぜ同じなのか』

宇宙の始まりと終わりはなぜ同じなのか 作者:ロジャー ペンローズ 発売日: 2014/01/24 メディア: 単行本 この本は、専門的な内容はまったく理解できなかったが、非常に面白く読んだ。 あまりにも面白いので、読み終わるのが惜しく、途中までは読むつもりがな…

『猿と女とサイボーグ』・その2

猿と女とサイボーグ ―自然の再発明―新装版 作者:ダナ・ハラウェイ 発売日: 2017/05/25 メディア: 単行本 『猿と女とサイボーグ』について、前回の記事では、所収の文章の中で最も有名な「サイボーグ宣言」について、少しだけ書いたのだが、あらためて全編を…

『猿と女とサイボーグ』

猿と女とサイボーグ ―自然の再発明―新装版 作者:ダナ・ハラウェイ 発売日: 2017/05/25 メディア: 単行本 この本は滅茶苦茶難しいんだけど、とても繊細で力強い。 とくに、レーガン政権下の1985年に書かれた「サイボーグ宣言」。 そのなかでハラウェイは…

『橋川文三 柳田国男論集成』

柳田国男論集成 作者:橋川 文三 発売日: 2002/09/01 メディア: ハードカバー 、全部読んだわけではないが、(図書館での)貸し出しの期限をだいぶ過ぎたので他の本と一緒に返却。 読み応えあった。 戦後の柳田ブームのきっかけになったと言われる「柳田国男 …

『天然知能』(郡司ぺギオ幸夫)

天然知能 (講談社選書メチエ) 作者:郡司ペギオ幸夫 発売日: 2019/01/12 メディア: 単行本(ソフトカバー) この本は、僕にとってはすごく難しい内容だったのだが、最後の方の部分で、考えさせられるところがあった。それをとくに書いておきたい。 まず、表題…

吉川幸次郎『杜甫私記』

この本は1980年に出たものだが、内容は、1950年著者の吉川幸次郎が40歳の時に刊行された「杜甫私記」と、その約15年後に発表された続編「続 杜甫私記」とを併せたもの。 以下の引用は、いずれも「杜甫私記」の方からとっている。 杜甫という人は…

ジェイムソン『21世紀に、資本論をいかに読むべきか?』

前回に書いた「オリガーキー」という言葉だが、ググってみたら寡頭制のことだと書いてあった。少数の人間が支配する政体のことで、多数支配を対義語とする、とあった。まあ、今の日本の実態にほぼあてはまりそうである(今だけか?)。 さて、この本も図書館…

シュトレーク『資本主義はどう終わるのか』

新型コロナで緊急事態宣言が出された時、図書館が閉館に入るというので、急遽近傍の図書館に行って何冊か借りたうちの一冊。そろそろ返すことになりそうなので、その前にここにメモをとっておこう。 この本は、2008年のリーマンショックをうけて書かれた…

ガタリ『三つのエコロジー』

この本の表題になっている論考は、1989年に発表されたものだそうだ。 当時の世界的な関心事として、ここでは特に三つの出来事が例に挙げられている。それは、チェルノブイリとエイズ、それにドナルド・トランプによるNYとアトランティックシティの貧困層…

カール・ポランニー『経済の文明史』

経済の文明史 (ちくま学芸文庫) 作者:カール ポランニー 発売日: 2003/06/01 メディア: 文庫 カール・ポランニーが、市場メカニズムに支配された19世紀以後の自由主義的資本主義を批判して、「労働、土地、貨幣」の三つの擬制(フィクション)ということを…

『官僚制のユートピア』

官僚制のユートピア テクノロジー、構造的愚かさ、リベラリズムの鉄則 作者:デヴィッド・グレーバー 出版社/メーカー: 以文社 発売日: 2017/12/11 メディア: 単行本 新自由主義に覆われた今日の世界のあり方を、(一般的な見解とは異なって)全体主義的官僚…

『先史学者プラトン』

先史学者プラトン 紀元前一万年―五千年の神話と考古学 作者:メアリー・セットガスト 出版社/メーカー: 朝日出版社 発売日: 2018/04/08 メディア: 単行本(ソフトカバー) とにかく面白い本だ。 内容も驚きの連続だし、原著が素晴らしいのだろうが、訳文も、…

南京証言集会にて

12月7日(土曜日)、大阪天満のPLP会館であった南京証言集会に行った。 特に印象深かったのは、今年92歳になる幸存者の男性のお話(南京で収録された映像)で、この人は日本軍による虐殺で3人の肉親を失った方だが、最後にこう言われていた。正確では…

国場幸太郎『沖縄の歩み』

国場幸太郎の伝説の名著ともいわれる『沖縄の歩み』が、今年6月、岩波現代文庫から修正を加えて再版された。この本は、施政権返還から間もない1973年に、牧書店というところから、青少年向けのものとして出版されたそうだが、平易な文章でありながら重…

『ジハードと死』

本書で著者は、宗教の過激化(原理主義)と、過激性の宗教(イスラーム)化とを区別している。 前者は、移民やグローバリゼーション、それに世俗化(ライシテ)といった原因によって引き起こされている「宗教の脱文化」(宗教が文化から切り離されること)と…

大道寺将司句集『残の月』

『残(のこん)の月』は、大道寺将司の2012年から15年までの作を収めた句集である。 死刑囚であったことに加え、晩年の2010年以降はガンとの闘病も重なっていたからだろうが、自分の生命(それは国家ではない、別の何ものかによって生かされていた…

『うどん屋にて』 昨日、中之島であった抗議集会とデモに行く途中、入ったうどん屋でたまたま中継を流してたので、新天皇が即位にあたっての所信表明みたいなのをする場面を見た。 各局が昼間は特別番組を組むのかと思ってたが、NHK以外は通常営業のワイドシ…

『東アジア反日武装戦線』を見て

先週末、京都市内で『東アジア反日武装戦線』という韓国のドキュメンタリー映画の上映会があり、参加した。 1970年代に日本で起きた有名な一連の事件と、関係者のその後を題材としたものである。監督のキム・ミレさんは、韓国で労働問題を題材に映画を撮…

『日本の政治』を見て

いま、神戸映画資料館というところで、戦後の労働組合の映画の特集上映をやっていて、昨日の土曜日はその第一回目ということで、見に行った。 僕が見たのは、1949年に国労が作った『号笛なりやまず』から、1960年の三池闘争の映画までの何本か。 感…

『資本論』第三巻から

資本論 6 (岩波文庫 白 125-6)作者: マルクス,エンゲルス,向坂逸郎出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 1969/07/16メディア: 文庫 クリック: 2回この商品を含むブログ (6件) を見る

『鎖国前夜ラプソディ』

鎖国前夜ラプソディ 惺窩と家康の「日本の大航海時代」 (講談社選書メチエ)作者: 上垣外憲一出版社/メーカー: 講談社発売日: 2018/02/11メディア: 単行本(ソフトカバー)この商品を含むブログ (2件) を見る 秀吉の一度目の朝鮮侵略である文禄の役の直前のこ…

『中動態の世界』

中動態の世界 意志と責任の考古学 (シリーズ ケアをひらく)作者: 國分功一郎出版社/メーカー: 医学書院発売日: 2017/03/27メディア: 単行本この商品を含むブログ (28件) を見るこの本は、昨年出版された日本の人文書のなかで、間違いなく最も話題になった本…

『西南役伝説』

西南役伝説 (講談社文芸文庫)作者: 石牟礼道子出版社/メーカー: 講談社発売日: 2018/03/11メディア: 文庫この商品を含むブログ (2件) を見る 石牟礼道子のこの本は、20年以上にわたって書き継がれた10篇ほどの短い文章からなっているのだが、その中でも…